251.美しき世界←10/27 ページ11
二宮「取り敢えず入ってみない？」(笑)
呆然としたままに一歩も動けないでいる私の肩をそっと抱き寄せ
「でもっ」
優しく私の顔を覗きこむように見る彼に諭され
二宮「いいから、ね？」
ここにずっといるわけにもいかず
「はい」
店へと足を踏み入れた
真新しい香り
お店の中は
グレージュとホワイトに統一され
私がデッサンブックに描いたものよりも遥かに
エレガントで洗練されている
生地は美しく本棚のように並べられ
メーカー、シーズン、カラーと個々に綺麗に整理されていた
インテリアも私好みのものばかり
見上げた天井には壁紙に合わせた淡いカラーのクリスタルが重なる大きなシャンデリア
シャンデリアも派手な造りではなく無駄を削ぎ必要な美しさだけをのこしたデザイン
そしてお店の外観からも見えていた
カッティングテーブル
裁断をしているのが通りを見る誰からも見れるような位置にある
近づきカッティングテーブルに手を滑らせた
そのカッティングテーブルがオーダーメイドだと直ぐに気づいたのは
女である私にピッタリな高さにあることだ
そして見覚えのあるトルソーに
「何で…………ですか？」
使い込んだミシン
二宮「ん？」
愛着のあるもの達もお店にはきちんとその存在を放つように置かれていた
嬉しさと
困惑で頭が真っ白
「だって………ここは……」
ただ安易に思い付いたのは
「………………まさかっ」
二宮さんがこのお店をオーナーから買った？
でも、先代から譲り受けたこのお店をオーナーがそんなあっさり手放すとは思えない
二宮さんは私の思考を読み取ったのか困ったように笑うと
二宮「いやいや、流石の俺でもここの買収は出来なかったよ」
それを隠すように綺麗な唇を手に覆う
「それなら」
二宮「…正直に言うとそれも考えた」
二宮さんならあのオーナーの意思すらも変えてしまうんじゃないかって思えたけど
不本意そうに眉を潜め憂いに満ちた瞳に微笑む彼
二宮「貴女の望み…夢…貴女を幸せにしてあげるのは俺でありたいからね」
その言葉の全てが嬉しいのに
今はそれを素直に心が受けとめられないのは
きっと私が知らない何か大きな事情があるんだって
二宮「でもこのお店は俺がどれだけお金を積んでも買えない理由があったんだよ」
そう言った二宮さんは私を見つめる瞳をずらし
「え？」
私の後ろに視線を向けた
その視線を追いかけるように振り向いた
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作者名：2-38
| 作成日時：2019年10月14日 11時
