彼のスーツを脱がす時８【NINO】 (ページ23)

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232.ガイ・フォークス・ナイトページ23

「綺麗」

中世の貴族や時代を感じさせる衣装に身をつつみ十字架の松明をかかげパレードをする人達

遠くには移動遊園地の観覧車の光

それはまるで映画の中にいるような感覚で

とても幻想的な眺めだった

その光景に立ち止まり見とれている私の目の前に

白く温かな湯気が急に現れた

大野「ほい」

あまりの寒さにオーナーがホットワインを屋台から買ってきてくれた

「すみません、ありがとうございます」

かじかむ指先をあたためるようにカップを両手に持つと

甘く豊潤な湯気に肺を満たしそれを口にした

オーナーは寒くても関係なくビールを買ってきたようで

松明の光を瞳に映し黙ったままにビールを飲んだ

「ロンドンに来て半年、長くて…でもあっという間でした」

オーナーとこんな風にゆっくり話すのはいつぶりだろう

大野「そうだな」

イギリスで会う事もあったけどほとんどとんぼ返りなオーナーとは仕事の話ばかりだった

「オーナー？」

また、暫くは日本に戻らないと言ったその言葉を思い返すと正直寂しい

大野「ん～？」

「ご飯ちゃんと食べてくださいね」

大野「そう言えば、お前斗真に言ったろ」(笑)

不服そうにだけどどこか楽しげに笑うオーナーは私の冷たく冷えた耳を悪戯に引っ張った

「だって、オーナーは本当にスーツしか見えないから」(笑)

イギリスに私がいる間、オーナーがちゃんと食事をとっているかだけが気掛かりだった

出会った頃のオーナーは

デザインや仕立てに入っると寝ずに
そして数日食べない事もあった

当たり前だけどどんなことにも限界はあるわけで

それで倒れた事も

大野「Aも…そうだ………………………ったろ？」

それ以来、当たり前のようにオーナーの朝食だけでもっと私が作るようになった

オーナーが日本にいる間はオーナーの幼馴染みでもある生田さんに気にかけてもらうようにお願いできたけど

でも

それもまた無理になる

「…え？」

大野「"スーツしか見てない"」

その言葉が過去のものだったという響きに言うオーナーは

私の心も頭も占める別のものに気づいてる

大野「………社長さんとじゅうぶんお前なら並んで歩ける女だよ」

そんな事をオーナーに言われるなんて思いもしなくて

引っ張られた耳をほどくと温かな手のひらが私の頬を優しく撫でる

「オーナー？」

じっと私の目を見つめたままに何処か寂しげに笑うオーナー

職人として見てくれたオーナーとしては失望させてしまったのかもしれない