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Tokai-side





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打ち上げられた花火は思った以上に
近い場所だった。

大きな花が隣の彼女を照らしていく。



「すごい……!」

「うん」



月に三回会えれば良い方。

会ったとしても中途半端な時間帯で
ほんの数十分。

少しブラブラ歩いて、だいたいすぐに
俺の方にオペやれコールがかかってくるから
そうしたらサヨウナラ。



それがいまは誰にも邪魔されない時間を
この子とようやく過ごせている。




「わあ……!」

「……」



Aはいつも、表情に出す。

怒った時も気にくわない時も恥ずかしがる時も。


本人は隠してるつもりらしいけどね。


分かりやすい。とっても。




「特等席でしょ」

「はい! もしかして下の広場より綺麗に見えてるかも……!」

「ふふ」



Aといると、自然と笑わせられてしまう。

彼女は無自覚だけど。



「あ、今ハート型だった!」

「桃だろ」

「逆さまのハートですよ!!」




自分がまさか、“彼女”と一緒に
並んで花火を見る日が来るなんて
思ってもいなかった。


しかも、“元担当の患者”。


あの頃が随分昔のようだけど、
でも二ヶ月くらいか。




「……凄いなぁ」





この子を見ると、


甘やかしたくなるし、

意地悪したくなるし、

とにかく愛しくなる。



この時間が止まれば良いのにとさえ思ってしまう。


らしくないな、ほんと。

俺らしさを彼女はいつも奪っていく。




「渡海先生」

「ん」

「素敵なところに連れてってくれて、ありがとうございます」

「……うん」

「私、この景色一生忘れません。
宝物にします」

「大袈裟」

「だめですか?」

「来年も一緒に見るから、忘れても良いと思うけど」




普通に思っていたことを言うと、

不自然な沈黙が訪れる。



なんで急に黙ったんだ、とAの方を見たら……




「……なにその顔」

「へっ?!」




俺の方を見上げる瞳と、
頬を染める赤。


そんな驚くことは言ってない筈なのに



「……」

「とかいせ……っん」



理性を保つのにも必死なんだよこっちは。

いい加減気づいてくれる?



そう分からせようと俺は彼女の口に
自分のを押して、


優しく、優しく。




Aの小さな手がすがるように俺の服を握った。


それに答える意味で俺はもっと彼女を抱き寄せる。








花火は、俺達なんか気にも止めずに

いつまでも夜空に咲き続けた。









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みーこ(プロフ) - 可愛い、この二人萌える〜 (2018年10月2日 22時) (レス) id: 84fdbed2f6 (このIDを非表示/違反報告)
紫雨(プロフ) - くまちゃんさん» ありがとうございます!そう言ってもらえてとてもホッとしております(*^^*) (2018年9月25日 7時) (レス) id: b7016d0be3 (このIDを非表示/違反報告)
くまちゃん(プロフ) - ドキドキが止まりませんー! (2018年9月24日 9時) (レス) id: de2b78e93f (このIDを非表示/違反報告)
紫雨(プロフ) - ひまりさん» ひまりさん!コメントありがとうございます!!なかなか難しそうなんですね……!周りのかたはセンスがよくてちょっと背景変えるのが怖くなってきました(笑)なれてきたら変えてみようと思います!教えてくださり、ありがとうございました! (2018年8月16日 18時) (レス) id: b7016d0be3 (このIDを非表示/違反報告)
紫雨(プロフ) - ミウさん» はじめまして(’-’*)♪コメントありがとうございます!そうなんですよね、悩みに悩んで結局白にしちゃいます笑笑 しっくりくんですよねぇー笑笑 (2018年8月16日 17時) (レス) id: b7016d0be3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:神室紫雨 | 作成日時:2018年8月4日 11時

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