第183話:その研修医は××か1 ページ38
その目つきは、その冷やかな声は。
本質こそ違うが、それはまるで誰かに瓜二つだったと後に医局員は語る。
「研修医だからまだ、って言いたいんですか。」
「…」
「私の指導医を誰だとお思いで?」
「……それは、」
「…心外ならいつか直面する手術です。その経験が早かったか遅かったかなんて些細なことでしょ」
少し血の気が引いた研修医の顔色。本人はそれにすらきっと気づいていない。頭の中は真っ赤だ。
彼女はするりと目を細めた。
「縫合を開始します」
.
そこに居るのは医者だ。
(いいや、医者になんて、まだまだなれてない)
人々は言うだろう。まさしくあれは神であったと。
(いいや、こんな明るい照明の下に立ったって、神の気持ちになんてなれやしない)
きっとみんな必死だ。
自分を神だと驕る医者はきっと、その足元から崩れていく。
我々医者は神になろうとしているのではない。
ただ人間を、目の前の同類を、命を救いたいだけなのだ。
(誰が、言ってくれたんだっけ)
もう覚えていない。
ただ、どうしてもその手を握りたくて、握れなかった。離れていくその背が寂しかった。
そこに居るのは医者だ。
無影灯に照らされる研修医を神のようだと思った者は誰ひとりとして居ない。
それは無我夢中に患者を救おうとする平凡な人間だったからだ。
.
持針器をしっかりと持つ。ドベーキーは握り込まず、しかし強めに。弱くもなく、均一の力で。
淡いピンク色の動脈。血に濡れながらも、その上に人工血管を重ねるようにして、針を入れ込む。
両者が決して離れないように糸を縫い込み針をまた外へ出す。順序良く針を持ちかえる。
その手は決して震えない。
等間隔でそれを繰り返す。
特に針を持ちかえる時はなるべく肩の力を抜きながら、あくまで自然体に。
神経質になるとそのぶん遅くなる。
これだけは遅くなってはならない。
もちろん縫合自体も迅速にやるべきだが、今の自分の実力を見れば、
なるべく最善に最速にやるには針の持ちかえをスムーズに行う事。
縫合はただ、ゆっくりでも丁寧に。
己の指導医のような速さでやるには、まだまだ度胸も経験も足りない。
(…大丈夫。いける。)
その目と腕は確信に満ちている。その道が見えているかのように。
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時