第176話:白衣1 ページ31
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「せんせーは、かみさま?」
梓紗はAの左手の人差し指を握る。
力を緩めたり強めたりして、その指の弾力を楽しんでいる。
Aは微笑ましくそれを眺めていたが、梓紗が不意に口にしたそれに首を傾げた。
「かみさま……?どうしてそう思うの?」
「かみさまって、みんなをすくってくれるって、えほんにあったの」
「うん」
「せんせーは、みんなのこと、たすけてくれるんでしょ?」
「………、うん…」
「だからせんせーは、かみさまでしょ!」
…口ごもるしかない。
うーん…、と、Aは困ったように笑う。
梓紗にとってその反応は思いがけなかったもののようで、あれ?と言って目を丸くする。
「ちがうの?」
「……そうだなあ…」
クリップボードに挟んだ紙の上にペンを置き、Aは梓紗と真正面に向き合う。
彼女に掴まれている左手はそのままに。
看護師は点滴を取りについ先ほど病室を去っていったばかりだ。
ちょっとのお話程度、許されるだろう。
夕焼けが病室を淡く染めている。鮮やかな空が鏡のように映る少女の瞳を見つめて、Aは問う。
「あーちゃんには、
「えほんでは、かみさまは真っ白だった!せんせいも真っ白!だから、見える!」
見えるんかい。
真っ白、というのは。
「これのこと?真っ白って」
「うん!」
白衣を指差すと、梓紗は嬉しそうに無邪気に笑った。
なるほど、白衣。
小さい頃、己もよく医療施設ではこの白衣を爛々とした目で見つめていた。
父親に早く行くぞと急かされたのだったっけか。
今じゃ、もう。
(結構、窮屈なんだよな)
患者の前では白衣を着用するが、逆にそれ以外は一式スクラブだ。少なくとも自分は。
この少女にとっては神様に見えるその白衣。
Aにとってこの白色は、正直「邪魔」でしかない。
だって簡単にシワだらけになるし。
洗ってもらっている身だが面倒だろうし。
汚れたらめちゃくちゃ目立つし。
軽率にカレーうどんとか食べれないし。飛び散った暁には周りの目が同情的だ。
…腕を通した瞬間、「医者」という名目が圧しかかってくるようで、気合は入る。
でも、私にはどうしても。
(患者がまるで遠い)
布が一枚重なった程度なのに、あまりにも遠く思えるのだ。
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時