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第164話:睡魔2 ページ19

かといってホイホイと医局にUターンするわけにもいかず、せめて朝日を浴びようと外へ向かった。
物静かで薄暗い廊下を速足で抜けていく。ゆらりゆらりと睡魔が千切れて絡まっていく。


(やばい、体が追い付いてない…前までは大丈夫だったのに…)


ちなみに補足しておくと、Aの体内時計は一貫して健康的な成人女性である。
要は、盛大な無茶が効くような体質ではない。

つまり大丈夫ではない。大丈夫であったことは一度もない。

ただ集中状態になると一気に睡魔が吹っ飛んで覚醒状態になるだけで。
その後は、ご存知の通り負担が押し寄せて死にかけの研修医の出来上がりである。

そんなことさえも、Aは一時的に忘却している。


記憶を頼りに歩いている廊下には、ひとりぶんの足音しかない。

瞼の重さが比ではなくなってきて、Aは両目をごしごしと擦りながら前へ進んでいった。

―――どん、と身体に衝撃が走る。


「ぁっ!?」
「おっと」


誰かとぶつかった。それは瞬時に理解できたものの、身体のバランスをとれない。

ただでさえ力が入っていなかったその細い脚はたたらを踏んで、
そのまま重力に従い後方へ倒れようとしていた。


「Aくん」
「ぅえ…」
「大丈夫かい」


聞き慣れた声だ。渋く、威厳のある男性の声。

それを認識した瞬間、弾かれるように睡魔が散っていく。
Aはハッとして顔を上げた。


「さ、佐伯教授…!!」


父の存在とどこか重なるような男。
横分けの髪型に、髯が生えたその顔は声や立場と似合って貫録がある。

それでもどこか優しげな目つきは、今は倒れ掛かった研修医を見下ろしていた。


「うん。怪我はないかい?」
「えっ?あ……?」


何が起きたのだろう。

Aは一瞬遅れて足元を見下ろした。その足はちゃんと地について身体を支えている。
また、佐伯のその無骨な手が、彼女の細い腕を掴んで支えていた。

倒れかけたところを間一髪で支えられたらしい。
Aは小さく「大丈夫です」と答えると、佐伯は微笑んでそっとその手を放した。


「あっ…あ、ごめんなさい、ぼーっとしてて…」
「気にしなくていい。お疲れのようだね」
「ははは…お恥ずかしいところを…」


佐伯との会話に頭が働いていない。彼女の応答が一瞬遅れている。
本人は気づいていないが、佐伯はその異変を即座に見抜いていた。


「急ぎの用かい?」
「えっと、いえ…。朝日でも浴びようかなって…」

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設定タグ:ブラックペアン , 渡海征司郎   
作品ジャンル:恋愛
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snake20xjapan04(プロフ) - めっちゃ面白いです! (2018年9月22日 11時) (レス) id: b0aeedf16f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とてもわかります(;ω;) 確かに続編あったら…とも思うんですが(海堂シリーズ読破者としては特に!)、渡海先生…渡海先生…orzってなります…(笑) へへへっ、自分のペースでもりもりやっていきます!!ありがとうございます! そうなのよ奥さん!不思議ね!! (2018年7月22日 0時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - ペアンロスわかります。。ベイストで続編うんぬんの話を聞いてさらにロス再燃。。褒めて欲しい主人公ちゃんと甘えを逃した渡海先生の肩落ち加減がかわいいです…!Kさんがたのしく書けることを祈ってます。追い込まないで…。で、2人まだ付き合ってないの奥さん?? (2018年7月19日 20時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - 橘花さん» とても細かい所まで着目してくださっている!!!作者としてありがたいとこの上ありません(*´Д`*) (そして再びご返答遅れてしまいすみませんorz コメント自体に気づきませんでしたorzいつもありがとうございます…!) (2018年7月19日 13時) (レス) id: f4cc5215a6 (このIDを非表示/違反報告)
橘花(プロフ) - 緊張してキモオタみたいな喋り方しそうですが、よければぜひ♪私は描写、丁寧できれいな言葉でだいすきです。その傾向なかったり…?!(笑)渡海先生の問答で「美しい…」の答えに「…はい」の…がすてきです(マニアック)案外ノリとテンポのいい2人がすきです! (2018年7月11日 19時) (レス) id: 2798c105f2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:K | 作成日時:2018年6月14日 0時

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