紫耀side こんなはずじゃ… ページ9
抱き締め、
キスをした。
今日はこんな事するつもりなかったのに…
その瞳で見つめられたから、
その声で、
名前呼ばれたから…
指輪なんかしてるから、
我慢なんて出来なかった。
触れた唇は、
あの頃のままだったけど、
この唇は、
今はもう俺のものじゃないんだって、
そう思ったら、
抜き取った指輪は手から零れ落ち、
夢中でキスをした。
こんなはずじゃなかった。
もっと上手くやるはずだったのに…
後悔が襲う。
Aを前にすると、
自分の気持ちをぶつけるだけの俺。
あれから少しは大人になれたと思ってたのに、
全然変われていなかった…
Aはこんなにも変わってしまったのに…
俺を愛した事は過去にしてたのに…
でも、
Aがキスに応えてくれた。
嬉しかった。
あの頃と変わらず、
俺の首に両手を回し、
優しく、
ゆっくりと唇を合わせ、
微かに舌も絡み合う。
タイミングも、
呼吸も、
別れていた年月を
感じさせないくらいのキスだった。
やっぱりAも俺のこと…
俺とAは運命の相手でしょ？
でもAは流されたと、
ごめんと謝った。
何で？
確かにキスからは気持ちが伝わったのに、
何でなの？
必死に指輪を探すA。
彼氏と別れてよ…
ねぇなんで、
あんなキスしておいて、
それでもまだ彼氏を選ぶの？
彼氏の名前なんて言わないでよ…
知りたくないよ…
指輪を取ってあげて渡すと、
左薬指に戻されたダイヤの指輪。
それは悲しいくらい光り輝いていて、
目を背けることしか出来なかった。
どうにか説得して家まで送り届ける。
サヨナラは言わないでよ…
こんなんで終わりって嫌だ…
俺は諦めないから。
必死に縋る俺に、
もう諦めなさいとでも、
神様から言われているかのようなタイミングで、
Aの彼氏が通りかかってしまった…
想像してたよりも、
遥かにかっこよくて、
多分俺達のやり取りを聞いたはずなのに、
冷静で、
大人な対応をするその男に、
俺は太刀打ちできなかった…
ただ、
手を引かれ、
その男と歩いていくAの後ろ姿を見送るだけ。
そんな後ろ姿でさえ、
嫉妬で見ていたくなくて、
車に乗り込み、
帰った。
運転しながら、
あの後、
酷いこと言われたりするかな…
酷い事されたりしないよね…
怒られたり、
泣かされたりしないよね…
大丈夫かなA…
自分のせいなのに、
心配で、
もしそれで別れたりしてくれたら、
願ったり叶ったりのはずなんだけど、
そんな事忘れて、
心配で堪らなかった…
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作者名：ひろみ
| 作成日時：2021年8月7日 1時
