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雪村「骨盤骨折で赤タグです。パッキング部分にはまだ土砂が残存しています。
搬送先で洗浄するよう伝えてください」

振り返るとそこには、レスキューに容態を報告する雪村さんの姿があった。

そして、その隣には彼の姿も。

無事だとわかっていても、
一度は連絡が取れなくなった彼の、瓦礫で汚れた姿は、私の目の蛇口を開ける充分な素材となる。

私は雪村さんに声をかけ、状況報告をしてもらった。

* *

藍沢side

地上に上がり患者を引き渡そうとした時、
今にも泣き出しそうな彼女の姿をみつけた。

いますぐにでも抱きしめてやりたい。

ごめんなって。
いっぱい抱きしめて、いっぱい頭を撫でて、
“もう大丈夫だ” と、伝えたい。

そんな気持ちをぐっと飲み込んで、
トリアージ済みの患者をみつけ、治療に入る。

新海「藍沢。頭蓋骨骨折で、出血もひどい。
骨も陥没している。･･･手伝ってくれ」

藍沢「脳を圧迫している骨を除去する。
そっちは静脈洞から、出血源を探ってくれ」

新海「分かってる。」

現場に駆けつけてくれた新海に感謝をし、
ふたりで患者の治療にあたった。

* *

横峯side

辻が谷駅に到着し、患者の治療をしていると
後ろからレスキュー隊に声をかけられる。

〈先生！まだ体温あります！お願いします！〉

横峯「っはい！」

未だに先生と呼ばれ、一人で治療をすることは慣れていないが･･･そんなことを言っている場合ではない。

横峯「脈、呼吸なし。瞳孔も散大しています。」

最後の命綱であった赤タグを黒タグに変え、ほかの患者の元へ走った。

すると、立ち尽くす小さな男の子をみつけた。
･･･なんだか、放っておけなくて。

横峯「大丈夫？」

落ちた帽子の砂を払うと、その子──かけるくんは小さな声でつぶやく。

〈せんせい･･････てる、〉

横峯「ん？なに？」

耳をかけるくんの口に近づけた時、
彼が握っているものに気づいた。

横峯「ごめんね、それちょっと見せてくれる？」

そのペンライトに彫ってあったのは、
『FUJIKAWA』という文字。

横峯「･･･これ！」

冴島さんにそれを見せると、彼女はかけるくんの元に駆け寄った。

冴島「これ！どうしたの？！」

〈･･･助けてくれた先生がくれた。先生･･･うまってる･･･〉

藤川先生は、きっとまだ無事だ。

そう信じながら、その場での治療を再開した。