明日 (ページ33)

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残り香　たつ3 ページ33

動けへん、と甘える隆平の体を拭いてやると
そのまま寝息をたて始めた。

寝るんかい。
ちょっと激しかったか。

腹、減ったな。

ひとりごちてキッチンへ向かう。

揃いのルームシューズはもう3代目になった。

まるいコタツ
似たような部屋着
緑とオレンジのブランケット
傷だらけのビンテージのベース
小さなアンプ
音漏れのしないヘッドフォン
読みかけの分厚いハードカバー
食いしん坊が連載してる雑誌

俺の生活に馴染みすぎた隆平の欠片。

冷えたカフェオレを飲み干して
さっさとオレンジのマグカップを洗った。

ウォーターサーバーから出るお湯は
なんだか味気ないような気がするらしい。
よくわからんこだわりがうつって
ヤカンで沸かすクセがついた。

なぁ。

こんなにも俺のなかに隆平がおるのに。

どうしようもないことで
泣いたりせんでくれよ。

カップラーメン作るだけなんに
キッチンで泣いてる俺ってアホなんちゃうか。

好きで好きで好きで。
もういつからかわからんくらい前から好きで。
思いが叶ってこうしてるんやから。
今さら離れられへんし
なんなら死んでも離れてやれんし。

あぁ、もう。

あのときのアコギの音色と
優しい歌声。
思い出して口ずさんだ。

カタカタとヤカンが音をたてて
歌いながらカップラーメンの蓋を開けた。
湯気が乾いた頬をじわりと暖める。

換気扇の下で煙草に火を着けた。
zippoを開ける金属音。
生まれ年のビンテージ。
こないだ誕生日に隆平に贈って
自分のぶんも買うた。

飾りのないシンプルなシルバーも
使われ方によって
味が変わっていくように
俺たちも同じ場所にいたって
ふたつの鼓動を奏でてる。

だけど。

同じ時は紡いでいけるから。

なぁ。隆平。

吐き出した煙の匂いも
口のなかのほろ苦さも
隆平とおんなじやねんで。

愛してる。

どんだけ言うたらええんやろ。

『ピピピピ・・・』

キッチンタイマーの音にハッとして
シンクの水滴に煙草押し付けた。

明日の朝、灰が残るからやめろって
怒られるんやろぉなぁ。

まぁ、ええか。
ラーメン、ラーメン。

ええ匂い。
とりあえず、食って。寝よ。

夜はふける。
12月。

もうすぐ今年も終わる。