兎と握手 ページ33
｢ふむ。実は私は、君のことを事前に知っていたのだよ。宇佐美上等兵から報告される前にね。それは、君の実家の武器屋の近所にある、剣術道場の師範と私が古い付き合いだからだ。｣
｢えっ･･･あ、あの師範と?!｣
思わぬ知り合いの話に、Aは思わず目を見開いた。
｢ああ。それで、君の剣の腕前を何度かあの道場で見たことあるのだ。君が網走監獄の看守になる前の話だから、かなり前の話になるが。私は、師範に道場に呼ばれた際、偶然君を見かけた。そのとき君は、その剣さばきで、複数の相手を一瞬で華麗に退いていた。私はその時思ったよ。なぜ、男子じゃなかったのか、とね。｣
その鶴見の話に、その場で聞いていた全員が驚きで声も出なかった。
｢って、ことは･･･私が知らないだけで、私は鶴見中尉に既にお会いしたことがあると？｣
｢そういうことになるな。だから、君をここに一緒に連れていきたいと、宇佐美上等兵から報告されたときは、本当に驚いたよ。あの、素晴らしい剣さばきの女性がまさかな･･･とね。｣
｢Aさん！こ、これは、運命ですよ！僕達、鶴見中尉殿という縁結びの神に導かれたんですよ！｣
そういって、宇佐美はAの手をこれでもかというくらい握り、上下にブンブン振った。
｢う、宇佐美さんったら･･･｣
Aはそれに照れ、少し頬を赤く染めた。
｢洋平。あの二人いちゃついてるね。そう思うだろう？｣
｢キエエェ！宇佐美上等兵！調子に乗るなぁ！鶴見中尉殿は、宇佐美なんかのためにそんなこと･･･！｣
｢うるさいですよ鯉登少尉。鶴見中尉に迷惑です。｣
｢そ、それはいかん！もうしわけあいもはん鶴見中尉どんんん！｣
｢だから、うるさいですって･･･｣
(宇佐美が連れてくる女なんて、正直、ロクな奴じゃないと思っていたが･･･普通だ。普通すぎる。特に今のところ、常識を逸脱した行動はされていないし･･･こ、これは、第7師団の数少ない常識人になるのでは?!)
月島は顔に出さずとも、Aの存在に酷く歓喜していた。それほど、この面々をほぼひとりで抑えるのは大変なのであった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 73人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
