兎と逃避 ページ28
｢泣いてるAさんも可愛いなぁ。｣
そういって宇佐美は近づき、Aの目尻に涙を拭うように口付けをする。Aは、その行為になぜか酷く安堵した。Aはもう、宇佐美に何もかも委ねたい気持ちになった。
｢ふふ。これで、僕達は両想いですね！｣
宇佐美は、外の入口に戻ってそう明るく笑った。
｢Aさん。｣
｢な、なに･･･？｣
｢僕は門倉部長と違って、本当にあなたのことを想ってますから。｣
そういって宇佐美は、獲物を捕らえたときの猛獣のような鋭い目でAをみつめる。Aはその宇佐美の目に、トクン、と心臓が打ち付けられる。
｢僕はあなたに真実しか話していません。嘘偽りない真実だけを。門倉部長と違ってね。｣
｢そ、そんなの、嘘に･･･｣
｢嘘で、第7師団のスパイだとあなたにいうと思いますか？下手したら、僕はあなたに密告されて抹殺されますよ。そんな馬鹿な真似しませんよ。｣
｢そ、それは、そうだけど･･･｣
｢だから、僕と一緒に来てください。｣
そういって宇佐美はAに向かって手を差し伸べる。まるで、この監獄の檻から出ようとでもいうように。宇佐美の背にある太陽の光が、より宇佐美の陰影を濃くする。Aはそれに、神秘的な神々しいものを感じた。宇佐美が人ならざるもののように感じた。例えるならば、見た目は純白の天使。しかし、中身は堕落した悪魔。そんな堕天使のようだ。今の宇佐美は、まさにそれだった。Aを純粋な笑顔で堕落させようと甘く囁いている。
｢わ、わたしは･･･！｣
｢このまま、門倉部長と偽りの絆を紡ぐのと、僕と一緒に真実の愛を育む･･･どっちが良いですか？｣
｢そ、それは･･･｣
｢僕はAのこと心から愛してますよ･･･｣
宇佐美は酷く優しくAにそう甘く呟いた。Aにはもう、選択の余地はなかった。なぜなら────
｢私も宇佐美さんのこと･･･愛している･･･｣
そういってAは宇佐美の手を取った。するとすぐさま宇佐美は、Aの手の甲に口付けをする。Aはそれに、胸がトクトクと早まった。
そう。Aは宇佐美を愛してる。それを認めてしまったからである。
｢さぁ、早くこの檻から出ましょう！｣
その声と共に2人は一歩外に踏み出したのだった。そして、連れ立って行方をくらました。そんな2人の逃亡劇を見ていたのは太陽だけだった。
もう、彼から逃げられない
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
