兎の証拠 ページ24
そこには、Aが門倉から教えて貰った、門倉の父親の名前があった。その備考欄には、｢この戦争により戦死｣とあった。更に、家族構成の欄があり、現在は息子がひとり健在しているのみとあった。そこには、門倉の下の名前が書かれていた。
そのページのタイトルは｢旧幕府軍 函館戦争参加者一覧｣だった。
｢あれれー？その様子だと、今初めて知ったようですね？門倉部長は何でもAさんに教えてくれるんじゃなかったんですかねー？あはは･･･！｣
宇佐美は、悪戯が成功した子供のように高らかに笑った。Aは、今日一番の衝撃的な事実を全く処理することが出来なかった。Aの血の気はどんどん引いていく。
｢な、なんで･･･なんで門倉部長のお父さんが･･･土方さんと同じ旧幕府軍に･･･！どうして、教えてくれなかったの･･･憧れの土方さんのことも何でも教えてくれるっていったのに･･･！｣
｢決まっているじゃないですか────土方と共にした亡き父のために土方に尽くし、看守という皮を被って、土方と内通していることを知られたくなかったんですよ！知られたら、あなたが犬童典獄に密告するのは間違いなしですからね！｣
｢いや、そんな、違う、違うよ･･･憧れの土方さんと内通なんて･･･！私は娘のようって･･･私はいわないのに土方さんと門倉部長ためならいわないのに･･････娘のように信じてくれたんじゃ･･･門倉部長は門倉部長は、なんで、あぁ･･･！｣
Aは、父親のように信頼していた人間に本当に裏切られたと感じ、酷く錯乱した。宇佐美の言葉が体を刃物で抉られたようにズキズキと刺さる。そのため、Aは本に書かれていることが嘘かどうかなんて考える余地もなかった。
｢さて、腑抜けダヌキを演じてた件も含めて、ゆーっくり、門倉部長という人間を紐解いていきましょうかAさん？｣
｢や、やだ･･･こないで･･･！｣
｢ふふ。ダーメ♪｣
Aの願いも届かず、宇佐美はギュッとAを何があっても離さないように強く抱き締める。
｢い、いや･･･！｣
Aは、これから宇佐美がいおうとしていることが何となく分かった。それは、Aが一番考えたくない結末だ。Aは、それが聞きたくなかった。聞けば、最後の砦が崩れる。Aの心の均衡を保っていたものが崩れさる。それは、今も信じて疑わない、門倉のAに対する信頼だった。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
