兎の結論 ページ22
｢どうしてそんなことをしたか。疑問に思いませんでしたか？｣
｢そ、それは･･･｣
｢こうは考えられませんか･･･？｣
そして、宇佐美はAの耳元ですら聞こえるかどうか分からないほど小さな声でポツリと囁く。それは、今のAを一番絶望させる言葉だった。
｢────門倉部長は土方らを円滑に脱獄させるために、Aさんを当日の前後休ませた、と。｣
｢な、なにそれ･･･それって･･･つまり･･･｣
Aの顔は次第に真っ青になる。それを知ってか知らずか、宇佐美はAの言葉を続けるように話す。
｢それはつまり、門倉部長は土方歳三の────内通者ってことですよ♪｣
｢あ、ああ、そ、そんな、そんなわけないわない、な、なんで･･･！｣
Aはその言葉に酷く絶望した。門倉が自分の憧れである土方をわざと脱獄させた。それは、門倉が土方の仲間だから。看守は土方を助けるための仮の姿。Aには、密告される可能性があるため教えられなかった。娘のように思っていないから、信用できずそれは隠していた。一番考えたくない結末をいわれ、Aは錯乱して、自分でも意味不明なことをいった。
｢そ、そんなわけないわ･･･偶然よ！ちょ、調整が効かなくて、私が休むことに･･･！｣
｢僕達第7師団は、犬童典獄の出張中に刺青の囚人達を移送するつもりでした。しかし、その道中、兵士が持っていた剣を土方歳三に奪われ皆殺しにされました。あえなく、囚人達の脱獄を許してしまいました。｣
｢そ、それが何よ･･･｣
｢僕達第7師団は、土方の幽閉は知っていました。しかし、刺青の囚人に紛れていることは知りませんでした。知っていたら兵士たちに、土方歳三の十八番である剣を間違っても持たせません────もし、Aさんが当日いたら、土方のことを詳しく僕達に教えますか？｣
｢あ、あたりまえよ。だって、そうしないと憧れの土方さんが脱獄して、一生会えなくなるかもしれ────?!｣
そこでAは、ある引っかかりを覚えた。それは、実際に土方は脱獄していることだった。自分なら移送する第7師団に、刺青の囚人に土方がいるから警戒しろ、剣は万が一のために武器として持つな、と警告した。
門倉だってそうするはずだ────看守部長としての責任を感じているなら。しかし、その警告は、看守部長の門倉どころか誰にもされなかったようだ。途端に、門倉に対する疑念が大きく強まる。
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作者名：もふもふ | 作成日時：2018年12月4日 12時
