山猫に一目惚れ (ページ33)

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意識ページ33

それは、Aが尾形に一目惚れしたきっかけでもある、件の射撃場での実技訓練でのことである。

｢アイツは確か･･･｣

｢花沢中将の妾の･･･｣

｢花沢少尉の腹違いの兄･･･｣

尾形が射撃の準備をしようと、兵士たちの集団から抜け出して前に出た途端、悪い意味でざわつく周囲。先に手本と称して射撃していた男───勇作は、尾形の腹違いの弟である。その勇作に周囲は、尾形とは正反対の賞賛をたたえていた。それがより一層、尾形の嫌なざわつきを際立たせていた。

｢･･････｣

だが、そんなことに尾形はとうの昔に慣れていた。だから、悪意のある視線をあちらこちらから感じても、何も感じることはなかった。周囲には目もくれずに尾形は黙々と弾をセットし、小銃を構えた────その時だった。
ひとつだけ、そうではない妙な視線を感じたのは。それは、勇作の射撃姿を一目見ようと集まった見物人の集団から感じた。それは、妙だが、決して居心地の悪いものではなかった。尾形はそんな視線を気にかけつつ、黙々と射撃を開始する。

そして、あっという間に的の真ん中全てに弾を命中(ついでに先に撃った勇作の弾は、地面に弾いた)させた尾形は、自分の番が終わったため、兵士たちの集団に戻る。その道中もあの妙な視線は、一瞬外れはしたものの、ずっと尾形を追っていた。尾形はそれが気になって、何となくそちらを向いた。

｢────！｣

表情に出さずとも、尾形はその心中で驚く。その先にいたのは、本来、ここにいてはならないはずの女だった。でも、尾形が驚いたのはそのことではない。尾形は、彼女の真っ直ぐに自分を見つめる瞳に、ただただ驚いたのであった。

周囲はいつも嫌悪の目──もっとも、勇作と件の双子は違うが──で尾形を見ていた。それが、尾形の日常の一部と化していた。だから、あまり受けたことのない、その一点の曇もない純粋に己を見つめる瞳に驚いたのだ。

｢────フッ｣

尾形は、その己を見る瞳に暫し目を奪われていた。その後、一拍遅れてそれに気づいた尾形は、内心だけだが、かなり動揺した。
だから思わず、前髪(とはいえ、角刈りだが)をかきあげる癖とともに、｢フッ｣と笑う────尾形なりの照れ隠しである。

そう、この日の射撃場で尾形とAは、既に互いを意識しあっていたのだった。