8.言葉の代わりにキスを贈ろう ページ9
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「もしかしてすえざわくんですかー？」
レギュラーでやってるラジオ終わり、馴染みのテレビ局を出て帰ろうとしたら後ろから声を掛けられた。普段やったら嬉しいしありがたいけど、仕事終わりやし夜遅いしはよ帰りたいし、ちょっとめんどくさいなーとか思いながら被ってたハットを更に目深に被り直して、「すんません、急いでるんで」なんて断って振り返ると、そこにいたのは大阪にいるはずのない奴で。
「は？」
『えー、せっかく来たのにめっちゃひどない？なあ、佐野くんもひどいと思わん？』
「ほんまですよね！Aちゃんせっかく来てくれたのに！」
状況が掴めないままの俺の前では、ひどいとか人でなしとか人の心が無いとか2人して言いたい放題言ってるAと佐野。
「言いすぎやろ」
『いたっ』
軽く、ほんまに軽くコツンと頭を小突くと大袈裟に痛がる素振りをするA。絶対痛ないやん、全然力入れてへんで、俺。
「は？なんでおるん？」
『なんでって、今日がなんの日か忘れたん？老化？もうボケ始まった？』
アラサーってこわいねえ？なんて佐野に話しかけてるけどお前もアラサーやからな。今この場でアラサーちゃうの佐野だけやからな。
そう、今日は俺の誕生日。
日付変わって一番に電話掛けてきてくれたけど、お互い仕事あるし今年は会われへんなーなんて話をした。…はずやのになぜかこいつは大阪におる。
『あ！佐野くん終電大丈夫？』
「ほんまや！ごめんなさい！俺先帰りますね！」
『こちらこそごめんね？引き止めて』
「いえいえ！久しぶりにAちゃんに会えて嬉しかったっす！」
『ありがとうね〜！またご飯行こね〜！じゃあね〜！』
お疲れ様でしたー！なんて長い足を駅の方へと向けて少し足早に帰っていく佐野。おい、俺にも挨拶して帰らんかい。仮にも先輩やぞ。あと"また"ってなんや。行ったことあんのか。
『誠也くんこのあとひま？ていうかひまやんな？こんな時間から用事あるとか言われたらあたし泣いちゃうねんけど』
「いや、まあ、暇やけど」
『よし！じゃあ、こっち来て！』
「あ、おい、」
『大丈夫。夜遅いし梅田やし、男女が仲良く手繋いでようが誰も気にせえへよ』
そう言うことちゃんねんけどなあなんて思いつつ、手を引かれ連れてこられたのはテレビ局のすぐ隣のホテル。チェックインはもう済ませてあるらしく、入ってすぐエレベーターに乗って目的の階へと向かう。
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作者名：てと | 作成日時：2022年9月3日 5時
