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「……なー」
『何?』
同窓会が終わり、皆が帰路に着くためにぞろぞろと外に出る。仲のいい人達はこれから二次会へ行くのだろうけど、そんな気力もないし、そこまでみんなと深く仲がいい訳では無い。
さて、帰るか。
ひとりで伸びをしていれば、少し前を歩いていた松田くんが振り返って話しかけてきた。
返事をすれば、松田くんの目が真っ直ぐに私を射抜いた。
「彼氏とかいんの?」
『……いるよ』
一瞬、ほんの少しだけ迷った。本当は、彼氏なんかいない。高校の時からずっと、私は松田くんへの気持ちを忘れられないままここまで来た。
嘘をつくのは忍びないけれど、もう松田くんのことは忘れるんだから、これくらいの意地張った嘘は許されるよね。
「ふーん」
『松田くんは?彼女いるの?』
「まあ。一応」
『そっ、か』
お返しと言わんばかりに聞き返した問いは、あっさりと肯定で返された。動揺しそうになるのを必死で抑える。
そりゃあ松田くんはカッコイイし、イケメンだし、彼女くらいいて当然だ。
大丈夫だ。もう大丈夫。こんな事で傷ついたりなんてしない。
駐車場の前まで来れば、『じゃあ、今日、楽しかった。ありがと』と私から別れを切り出した。
「ああ。本当に送ってかなくていいのか?」
『うん。大丈夫』
これ以上一緒にいたら、気持ちが戻っちゃいそうだから。
そんな言葉を飲み込んでかぶりを振れば、そうか、と松田くんも口角を上げて返してくれる。
「じゃあ、またな」
『うん。バイバイ』
優しく微笑んだ松田くんに、私も精一杯の笑みを返す。ああ、本当に。また笑った松田くんの顔が見れてよかった。
最後に、松田くんに会えてよかった。
さよなら、初恋。
私の淡い恋心。
本当に、大好きでした。
少し進んでから振り返れば、松田くんの背中が見えた。
それを目の奥に焼き付けるように見つめる。
これを、この気持ちを、しっかり消化して思い出に出来たら、その時はまた会いたいなんてわがままで未練たらしいだろうか。
車に乗り込む彼から目を離し、また大きく伸びをした。
そう言えばこの間貰ったいいお酒、開けていなかったな。今日は帰ったら飲んでしまおうか、なんて考えながら、私は澄んだ夜の空気を大きく飲み込む。
宵闇に負けないくらいの建物の灯りや喧騒をまといながら、夜の街を歩くのだ。
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✧︎ - 本当に好きすぎて一気読みしてしまいました…素敵な作品をありがとうございます!! (4月14日 1時) (レス) @page50 id: 28351a5556 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - あわさん» はわわわ神作?神作なんて言ってもらえるんですか……?すごく嬉しいです!私の文章力で松田陣平の素晴らしさを伝えきれているのか分かりませんが……笑 更新頑張らせていただきます💪 (2023年4月16日 18時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
あわ(プロフ) - 素晴らしい…神作すぎる…更新待ってます! (2023年4月16日 8時) (レス) id: a26e70e8e6 (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - ???さん» ひぇぇ好きだなんて言って貰えるなんて……ありがたいです!続き書きます!そちらこそ体調に気をつけてくださいね(*´﹀`*) (2023年2月26日 17時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
えりんぎのバター炒め(プロフ) - アリアさん» 本当ですか!?そう言ってもらえるなら喜んで続きを書かせていただきます(^ - ^ )コメントありがとうございます! (2023年2月26日 17時) (レス) id: 61116f8e5d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:えりんぎ | 作成日時:2023年2月22日 17時