おやすみの前に (ページ5)

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君しか勝たん(蓮) ページ5

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「…」

『…』

「あっこの料理めっちゃ美味しいよ！」

『ほんと？よかった』

「えっと…あとこれも！美味しい！」

『うん、ありがとう』

あとは…あとは…と、きょろきょろしながら明らかに引き攣った笑顔で話題を探す彼。

彼をこうさせてしまっているのは私のせいで、

仕事や人間関係でうまくいかないことがあり疲れている私に戸惑わせてしまっている。

わかってる、蓮といるんだから切り替えないとって。

でもどうしても頭の中は今日の失敗のことばかりで少しも晴れなくて、ぼーっとしてしまう。

「あっ俺洗い物する…」

『いいよ、ゲームの約束あるんでしょ？』

「や、でもアヤいつもしてくれとるけん」

『ありがとう。でも大丈夫。…私の仕事だし』

気にかけてくれる彼が本当に嬉しかったけど、彼は私の何倍も疲れているのに家事なんてさせられない。

毎日毎日、蓮はすごく頑張ってるんだもん。

私が、しなきゃ。

そう思って蓮の目を見ずに、彼から食器を受け取ろうとしたのに

「アヤはちょっと休憩！ソファーで待ってて」

『…え、でも』

「頑張りすぎなアヤはメタモンちゃんの刑です！

　すぐ行くけん動いたらだめよ！」

伸ばした手はサッとかわされ、逆に蓮に手首を掴まれそのままソファーに連れて行かれた。

たくさんあるメタモンのぬいぐるみをこれでもかというほど持たせられて、ほぼ埋もれてる。

少しでも私が動けば、あぁー！動いたぁー！とキッチンから高い声が聞こえてくる。

蓮の優しさが嬉しくて、申し訳なくて

溢れそうになる涙をぬいぐるみに隠した。

「め〜っちゃ手冷たくなった！アヤあっためて〜」

『わっ冷たい！ありがとう蓮』

「んーん。こちらこそいつもありがとーね」

『も〜〜〜…蓮〜…』

「どしたぁ〜笑」

『…ちょっと、疲れた』

「そっかぁ、アヤが頑張っとー証拠やね。でも息抜きせんとね？」

普段と明らかに違う私を気になってるはずなのに、何があったか深く聞いてこない彼。

どこまでも大人で、愛おしい。

彼に腕を広げれば、楽しそうに笑ってぬいぐるみごと強く抱きしめてくれる。

それだけで頭の中は彼でいっぱいになって、溜まっていた黒いモヤモヤした気持ちが消えていくのがわかる。

『もうほんとに…蓮しか、勝たん』

「誰にも負ける気無いっちゃけど笑」

これからも、蓮が私の安定剤であることは変わらないんだろうな。

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