八乙女事務所所属の少女、偽りの仮面を被る【アイナナ】 (ページ2)

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＊1話＊ページ2

貴方said

「ごめんね、Aちゃん。」

違う、そんなことが聞きたいんじゃない。

「〝さよなら〟」

なんで…、約束したのに…。
嫌、嫌だ…。私のこと…

『置いて、行かないで…』

呟き、目を開けて飛び込んできたのは白い天井。
顔が濡れている感触があり、触れてみるとそれは涙だった。

『ゆ、め…？なんだ…。』

また懐かしい夢を見たものだ、と思いながら一粒流れ落ちた涙を拭う。

確か今日は仕事が入っていたはずだ。
〝NEXT Re:vale〟…だったか。
Re:valeとの共演は初だ。
ブラホワ総合優勝を飾るほどの実力者…今や国民的スターのRe:valeとまで仕事が出来るぐらい成長したのかと物思いに耽る。

『NEXT Re:valeの前にも仕事が入っていたはず…。着替えたくない。布団と一体化したい…。』

そう言った瞬間、狙っていたかのようにインターフォンの音が鳴った。
こんな早い時間に来るのは誰だ…と普通は思うが、Aは薄々誰が来ているのか勘付いていた。
布団を引きづりながら歩き、モニターを覗く。

〔A、何してるの。今日はボクと一緒の仕事入ってたでしょ。いつまで準備しないつもりなの？〕

画面越し特有のくぐもった声。しかし美しい響きを持つ声が耳に入る。
そしてAはやっぱりか…と思う。
人気アイドルグループ、TRIGGERのセンターを務める九条天がそこにいた。

『…天。仕事、何時間も後の話。まだ準備しなくても大丈夫…。』

抑揚のない声で告げると天は、はぁ…と、ため息をついた。

〔君の準備は常人の倍かかるから…。それに、ボクが来なかったらいつまでもダラけてるつもりだったんでしょ。そんな心構えでいいと思ってるの？〕

あ、ダメだ。これは長い説教が始まるやつだ。
諦めたAは素直に部屋のドアを開けた。
そして姿を現したAを見た瞬間、天はこめかみに指を当てた。

「…布団、戻してきなさい。」
『私の将来の夢…布団でいいかなって最近真面目に思う。』
「馬鹿なの？ほら、着替える。顔も洗って。髪も結んで。ボクが朝食作っておいてあげるから。」

お前は母親か、とツッコミたいぐらいAの世話をする天。
対してAはボーッとした顔で、天のあれしなさいこれしなさいという声をバックにして不意に思い出していた。

神崎Aじゃない、花宮Aとしての、アイドルとしての人生が始まったあの瞬間を。