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ケージ:122 ページ26

久し振りに訪れた図書室は、前に来たときから一片も変わることなく綺麗に整理整頓されている。

綺麗にアルファベット順に並んだ背表紙を見つめながら、私はエーミール先生を振り返った。

「私は、何をすればいいですか?」

夕食を終えて部屋に戻ろうとした私に、お疲れでなければと話を持ち掛けてきたのは彼だ。

簡単な手伝いとのことだったけれど、細かな内容は知らされていない。
オパールの瞳を見つめると、柔和な笑みと共にこちらに、と促された。

広い背中の後ろを追って歩く。日が落ちた夜の図書室は独特な雰囲気だ。
隅から隅まで見渡せるほど明るい訳じゃなくて、何となくぼんやりとした、薄暗い雰囲気。

エーミール先生と私が声を出さなければ完全に無音なその空間が少しだけ怖くて、私はひっそりと歩みを早めた。

「手伝いといいましたが、あれは建前なんです。」

唐突に、静寂に柔らかい声が落ちた。

辺りを見渡していたのをさっとやめてエーミール先生を見る。彼は振り返らない。

一瞬だけ反応が遅れた。たてまえ、と繰り返すと、嘘ということですよ、と補足される。

「うそ……ですか?」
「はい。本当は違うんです。見て貰いたいものがあって。」

顔だけをちらりとこちらに向けると、ほんの少し悪戯っぽくエーミール先生が笑った。

あなたが気に入ってくれるかは分からないけれど、と言いながら、奥へ奥へと歩んで行く。

扉を開けて、本棚の道を歩いて、また扉の奥へ。

エーミール先生のススキ色の髪が、間接照明のオレンジに照らされてきらきらと黄金色の輪郭を描く。

それを見失ってしまわないように、私は彼の背中をただ追った。

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かぼちゃ(プロフ) - この作品大好きです。最高です。何度も読み返しています。主人公が可哀想で可愛い。仄暗さが最高です。更新いつまでも待ってます。 (9月29日 0時) (レス) id: af8b6c02d3 (このIDを非表示/違反報告)
さく - 続きは何処…! (2022年11月18日 7時) (レス) @page32 id: 77c841469d (このIDを非表示/違反報告)
バカふわ - 続きと結末が気になります! (2022年9月27日 21時) (レス) @page32 id: 95afcd7436 (このIDを非表示/違反報告)
りこち(プロフ) - すきです!!とくにz脅威さんの台詞の吃り方が天才です!!!!すき!!!! (2021年2月21日 15時) (レス) id: 7094782543 (このIDを非表示/違反報告)
あか - とっても好きです!?!?!?!描写がとっても素敵で....更新ゆっくり待ってますね!! (2020年5月23日 16時) (レス) id: 2c4cbba459 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ちくわ | 作成日時:2020年2月26日 20時

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