72 Sside ページ22
地方にロケに行ってお土産に魚をもらった。
もらったはいいけど、料理なんかやらないおれには持て余し気味。
こんな時一番に思い出すのは我らが釣り人、智くん。
メンバーのスケジュールはだいたい把握していて、きょうは休みのはずだから電話をしてみた。
１コールで出た智くんは休みにも関わらず不機嫌な声。
「なに？今急いでんだけど。」
「ロケ行って来て、魚もらったからおすそ分けしようかと思って。今
近くにいるんだけど。」
普段の智くんなら、
「何の魚？
刺身にできっかな？」
なんて食いついてくるはずなんだけど。
「わりぃ、そんな暇ねぇわ。今から出かけるから。」
らしくない言い方にちょっとびっくり。
「いいから、切るよ。」
一体どうしたんだろう、あせっているみたいだ。
「翔くん！
車？」
「そうだけど。」
「乗せて！」
智くんのマンションの前で猫背の彼を拾う。
助手席に乗り込むと
「道案内するから、まっすぐ行って。」
その声にはあせりが感じられた。
「住所は？
ナビ入れるよ。」
「知んない。」
「えっ？」
住所も知らない場所に行こうとしてるの？
「どこに向かってるの？」
道案内するときだけしか喋らない智くんに聞いてみる。
「・・・アトリエ。」
「智くんの？」
「ん。・・・ごめん、翔くん。
送ってもらって悪いけど、おいら何も話せないや・・・。
ちゃんと・・・謝んないと。
きっと・・・泣いてるから・・・。」
最後の方の言葉はほとんどつぶやきだったけど、誰かが泣いてるってことらしい。
チラッと智くんを見ると、キャップを深くかぶって正面を見て唇を噛みしめてる。
謝るとか泣いてるとか・・・まさか痴話げんか？
智くん、例の子とつき合ってるの？
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作者名：Fg | 作成日時：2014年7月10日 10時
