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「両手に花って、このこと言うんだろうなあ」
そう言って嬉しそうに、少し泣きそうな表情であどけなく笑った女———Aを、蘭はただぼんやりと見つめていた。
…Aが気を失った後、蘭はまず九井に殴られた。
未だ九井がこの女につけ込まれたと信じていた蘭は、冷ややかな目で九井を見ていたが、その一方で胸の中には水にインクが滲んだような靄つきを覚えていた。
マイキーが乱入する前、Aが見せた表情。アレは、本物の無知からくる怯えと、悲しみに満ちた表情に見えたのだ。
——いや、違う。違うはずだ。オレたちを心の底から受け入れられるようなやつなど、この世界には居やしないのだ。だからコイツは、別組織からの諜報員か何かに違いない。…そうであってほしかった。じゃなきゃ———
だが、蘭のその思考を無情にも呆気なく否定する人物がいた。
「…そいつが過去に他組織と関わった経歴は全く存在しない。身内に反社がいるわけでもない、本当に何も知らないただの一般人だ。オレもその情報をきちんと確かめてる。だから九井の補佐として採用することを認めた」
「!」
首領、マイキーである。
ボスにハッキリとした口調でそう言われてしまえば、もう何も言い返すことはできない。ただの早とちりで、何も知らない女に組織のことをバラしてしまった。紛れもなくこれは、自分の失態。
…蘭は冷静ではなかった。
自分では冷静だと思っていたが、実際そうではなかったのである。
幼い頃から親にすら醜いと蔑まれ迫害されてきた蘭にとって、自分とよく似た顔をした弟、竜胆は守るべき存在だった。
自分が下を向いてオドオドしていれば、石を投げてもいいと思われる。それでは竜胆が傷ついてしまう。だから自分のこの醜い容姿さえ利用して、喧嘩を売り、喧嘩を買い、のし上がってきた。強ければ強いほど周りは萎縮していき、蘭達を敬遠していく。
こんなだから、他人に優しくされたことなんてないし、仮にされても信じるわけがなかった。
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あまね - ガチ♡LOVE♡ほんっっとーに尊い!!!ガチで更新楽しみにしてます!!今もう作品崇めてます!!体調崩さない程度に更新してほしいです!! (2月9日 19時) (レス) @page25 id: 0a2d634d93 (このIDを非表示/違反報告)
てんごく(プロフ) - べッ別に控え目に言ってサイコーとか大好きとか思って無いんだからねッ!さ、作者さんのこと崇めようとか、いッ一ミリも思って無いんだからねッ!さっさと幸せな生活送っていい人と巡りあって神作、体調崩さない程度に作んなさいよねッ (12月19日 17時) (レス) @page25 id: 59fb56e365 (このIDを非表示/違反報告)
リトマス紙 - もう泣けてくるぐらいドンピシャ作品でした…!!!!!!!想いが裂けて口から内蔵出てきそうです!!(??)作品の更新、頑張って下さい!応援してます!! (6月4日 0時) (レス) id: 597af49ddb (このIDを非表示/違反報告)
ましゅまろぉ(プロフ) - 文章の感じ(?)とかお話すごく好きです〜!他のキャラは出るんですかね?それも楽しみにお待ちしています! (2023年1月25日 0時) (レス) @page25 id: f13e73b476 (このIDを非表示/違反報告)
カビキラー@Otaku2代目(プロフ) - ヒギャー!!好きっ!美醜逆転の梵天軸、しかもとっても好きな文章!!蘭ちゃんの所とかリアルにキュン死してしまいました…普段女なんて星の数程いるじゃん?みたいな顔してる人がキョドってるの本当に好き…美醜逆転のいい所全部詰まってる……好き……(語彙力皆無) (2023年1月21日 5時) (レス) @page17 id: edf3a1c316 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:怪人百面相 | 作成日時:2023年1月9日 22時