6話 ※並び替えました ページ7
"人という字は、お互いが支え合ってできています。"
小学校で教わった定型文。似たような表現があった気がすると思いながら、常用漢字ではないそれを撫でる。
「懐かしいね、それ」
『でしょ、やっぱりそっちのクラスでも言ってたか』
低学年の頃はクラスも分かれていたが、どうやらどちらの組の担任も考えることは同じらしい。教科書には記されていないものの、全国共通の認識なのだろうか。
「うん。そっちもだけど、Aが見てる方もさ」
『へへ、そうでしょ? 分かってて言ってた』
誤魔化すように、舌をペロリと出しておどけて見せる。
現在地、孤爪家の書斎。子供の頃から入り慣れたここは、昔とは打って変わって、ゲームの攻略本がこれでもかというほど詰め込まれている。特に多いのは戦闘ゲーム。
『でさ、研磨。
何でこの字だけマーカー引いてあるの?』
この字、と指を指したのは、紙の上に慎ましく乗る"戀"の字。
ゲームは滅多なことがないとやらない私の目に留まったのは、一冊の古びた辞書。年季が入ったハードカバーのそれは、本棚の一角にひっそりと納められていたもので、気がついたら手に取っていた。
「どれどれ…
…あー、何でだろ。多分おれが引いたと思うんだけど」
『やっぱり。ここだけ色新しいし』
ふわっと香る紙の匂いが心地よい。軽やかな音を立てて捲れるページの中、蛍光のラインマーカーが色落ちもせず丁寧に付いている。
「あ、思い出した」
研磨と共に暫く首を捻っていたが、頭を上げスマホを取り出す。液晶をすいすいと泳ぐ指を目で追いかける。
目に馴染んだ検索バーに"翻訳"と打ち込み、ぽいと差し出される。
「ほら、ここ。
中国語から日本語の設定にして、翻訳かけてみて」
『おっけーおっけー、
…わ、凄いねこれ』
一瞬の処理で浮かんできた意訳は、"愛"。
『なーんかロマンチックだ〜〜〜〜』
似てるけど違うのにね、と顔を見合わせる。言語の壁が面白い。
いつもとは違う雰囲気に、そういえば研磨と色恋の話をしたことはなかったと思い返す。意図して避けてきたわけでもないが、何年も一緒だとそういう流れにならないものか。
『これは印付けちゃうよね』
いつもと同じ距離のはずなのに、どこか近くて遠い。
些細なことにも胸が弾むこの気持ちは恋なのか、愛なのか。閉じた本からは知れなかった。
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ねぎ - Rioさん» コメントありがとうございます!嬉しいです、励みになります〜!! (2022年9月27日 23時) (レス) id: 124a1bc937 (このIDを非表示/違反報告)
Rio - 今晩、凄く素敵な小説を見てびっくりしました!更新、楽しみにしてます!(/^_^) ( 初対面なのにゴメンナサイ!) (2022年9月24日 19時) (レス) @page16 id: 9824f121c1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ねぎ+ | 作成日時:2022年7月7日 21時