30 ページ30
-----
ただ気分が良かっただけ。
適当に、そろそろ私の番だったからか何なのか、とりあえず適当に私が選ばれただけ。
それでも、いつもの無機質な天井を眺めるはずだったその夜が 特別な予定になった気がして私は浮かれた。
それと同時に、行き先の無い行き当たりばったりなドライブが今の私たちを揶揄しているようで言い知れぬ焦りのようなものを感じた。
｢どこか行きたいところある？｣
どこにも行けやしないくせに。
｢無いよ、どこでもいい｣
機嫌が良いキムソクジンの横顔を何度も盗み見ながらポケットで疼くジッポライターを布越しに触った。
｢あのさ｣
意を決して話を切り出すと
んー？と鼻歌交じりの返答が返ってくる。
｢これなんだけど｣
ジッポライターを取り出し、丁度赤信号で止まったタイミングでキムソクジンの顔の前に差し出す。
｢うん？｣
｢これ、忘れ物｣
｢忘れてないよ｣
目の前のジッポライターをやんわりと押し返し、その流れで私の手をライターごと握り膝の上に置く。
｢あげたんだけどな、Aさんに｣
青信号になり車が走り出しても手は握ったままだった。
｢今日まで気付かなかったなんて事ないでしょ？
返したくなかった？｣
住宅街から、少し外れた街の方まで車は進んできたが 同じく人気はなく 並ぶどの店も灯りを消してひっそりと佇むだけだった。
｢Aさん、可愛いね｣
立て続けに話すキムソクジンは握った手を離さない。
｢ちょっと停めようか｣
随分前に閉店してそのままになっていたパチンコ屋の駐車場にセダン車は静かに停まった。
ギアをパーキングに入れた車は、ワイパーの音だけが響いた。
｢このままどっか行っちゃおうか｣
手を握られた瞬間
キムソクジンを待っていた時に感じた胸騒ぎが何だったのかに気付いていた。
気付いていて、なんとか気付かないふりは出来ないかと思考を巡らせたが
それは不可能だったようだ。
｢ね、Aさん このまま一緒に行くならどこがいい？｣
｢どこにも行けない｣
久しぶりに口を開いた私の言葉が 予想外だったのか握った手がピクリと動いた。
ゆっくりキムソクジンを見ると
こんな時に限って 初めて見る顔をしていた。
どうして今日なんだ。
そんな、優しい顔。
どんな嫌味も どんな穿った物言いも いつものらりくらりとかわしてきたのに。
どうして今日は、そんなに優しい顔をするんだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 341人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
K(プロフ) - sunnyさん» コメントありがとうございます！ジンくん目線！凄くいいですね。整理が着いたら書いてみたいと思います！本当に嬉しいお言葉ありがとうございます。 (2021年10月15日 20時) (
レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
sunny(プロフ) - すごいどストライクの作品で大好きです💜！この作品のジンくん目線？の内容もすごい気になります！これからも大変かと思いますがお話頑張ってください！！ (2021年10月15日 18時) (レス) @page37 id: 5ee4f4580f (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - びぃんさん» コメントありがとうございます！嬉しいお言葉を本当にありがとうございます。こんな最低の男にしてしまって申し訳ないですが気に入っていただけて良かったです！ (2021年10月11日 18時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
びぃん(プロフ) - いやめちゃくちゃ好きです何だこれは……すっごい昂りましたありがとうございます神様仏様K様…… (2021年10月11日 18時) (レス) @page37 id: 57661bab90 (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - ほまさん» コメントありがとうございます！激アツ、凄く嬉しいです！風景を思い描いていただけて良かったです。これからも少しずつですが書き進めていこうと思いますのでまたご覧頂ければ幸いです。 (2021年10月11日 0時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：K | 作成日時：2021年10月2日 19時
