水中花/P5/宇宙人 ページ6
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小さな洞窟は予想していた大きさよりかは遥かに大きく広かった。天井はそれほど高くはないがそう感じるのは横に広いからであろう。右を見ても左を見ても広がるのは先が見えない濃厚な闇のみであり伸ばした手は無惨にも虚空を扇ぐことしか出来ずスカーレットの不安はますます大きくなる一方であった。そんなスカーレットを他所に鬼灯は小さい足でどんどん先を歩く。繋いだ手からは一定の脈拍が感じられる以外は暖かさも冷たさもなくそれは生きた人形とでも言うべきか、血が通っているということ以外は作り物のようだった。
「一つ、お訊きしたも宜しいですか」
不意に鬼灯が口を開いた。ツツジのような小さな口をゆっくりと動かすがそれは只本当にゆっくり動いただけで滑らかに紡ぐようには動いていなかった。スカーレットは返事をしなかったが鬼灯はそれに構わず続けた。
「貴方は一人でここに居ましたか? 誰か、男の人とは来ませんでしたか?」
妙な質問をする子供だとスカーレットは思った。始め、何処か広いところへ出た彼女は一人だった。鬼灯以外の足音は聞こえなかったから恐らくあの空間にはスカーレットと鬼灯しか居なかった筈である。するともしかしたら此処に囚われた別の、その男の人が居るのだろうか、スカーレットと全く同じような思いをした人間がスカーレットが出会っていないだけで居るのかもしれない。最初のクッキーが置いてあった部屋はスカーレットの他に少なくとも十はあった。その中に、他の人間が居たことだって有り得るのだ。スカーレットはそれを思うと次第に頬が上気し大きく整った口が微かに開いた。話そうとしているのだ。それでも、矢張り、スカーレットの声は出なかった。それに気がついたのか鬼灯はまた無感情なロボットのような声ですみません、と断りスカーレットの口に手を翳した。
「どうぞ、お話ししてください」
「私、は、一人で来たの。目覚め、たら、何処か知らない部屋に居て、それで、出口を探そうとして廊下を歩いていると段々手足の自由が利かなくなってきて、口も、開かなかったの」
「そうですか、有り難う御座います」
鬼灯はそれだけ言うと少し足を早めまた黙ってしまった。
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作者名:文芸部 x他4人 | 作成日時:2018年3月18日 0時