黒い箱/ページ2/OK牧場の春 ページ5
「すいません」
横から声をかけると、その人はこちらの方を見て「はい」と返事をしてくれた。
「地図のこの場所に行きたいんですけど、道を教えてくれませんか」
「はあ。ええっと、ここですか。
うーん、この場所から、そっちの方向にずーっと行って、郵便局が見えてくるのでそこを左に曲がって、三番目の角を右に曲がって、それから」
「えっ、えっと、はい」
怒涛の説明によくわからずに頷いていると、彼女は突然、途中でぴたりと喋るのをやめた。
「あの」
「ごめんなさい。難しいわよね、ここの道。この街に来るのは初めてですか?」
「え、は、はい」
「もしかして、働く場所を探してて、そのためにはまず、ここに行かなきゃいけないとか」
今の状況を見事に言い当てた彼女に、俺は驚きながらも頷いた。
すると彼女はふふ、と軽やかに笑い、俺の手を両手で握った。
「ねぇ、私のところで働きません?
配達のお仕事なんですけど、今人手が足りないんです。
よかったらどうですか」
そう言って彼女が口から出した労働条件は、俺が従兄弟に聞いていた待遇より遥かに良いものだった。
こうして俺は、この街に来て一時間もしないうちに、新たな仕事を手に入れたのである。
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作者名:文芸部 x他4人 | 作成日時:2018年3月18日 0時