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No side

高架橋の下に轟々と電車の通過音が響き渡る。

「っるさいな。」

不快な爆音に顔を歪めた京本は人差し指を耳の穴に突っ込んだ。それをしてもなお不快感を拭えない京本は早くこの場を抜けようと走り出した。

が、向かいからスーツを来た男が立ちはだかり足を止める。

電車が頭上を通過しきって徐々に静けさを取り戻す。京本は耳の穴から人差し指を抜いて男の顔を確認した。

「相変わらずの売り上げですね、京本さん。」

相手は曲線的な黒髪とジト目が嫌な空気を放つ伊藤翼であった。社長である倉沢の右腕的存在だ。

「お前のところは相変わらず強引なやり方をしているようだな。」

「人権なんて無いんですから、ごく普通なやり方だと思います。」

「無い訳じゃない。」

「私たちに剥奪されている間は同じでしょう。戸籍も命も預かっているんですから。あなたも名前はないと説明なさるでしょう？」

伊藤のニヒルな笑みに京本が眉を潜める。

「それでも人なんだよ。」

「だからあなたの指導は手ぬるい。」

「でもやつらは仕事をする。1日でも早く社会復帰できるようにするのが仕事だろ？」

「1円でも多く会社に利益を出すことが仕事です。社会復帰なんて求められてませんよ、クズ共は。」

敵対する眼差しがぶつかり合う。

再び電車が通過したが、京本はそれを気にするほどの状態ではなかった。

伊藤は会社に突如現れ、初めから倉沢の隣にいた。その情けのない価値観を京本らに押し付けて、場合によっては行使してくる。

京本はこの男を嫌悪を越えて憎悪していた。

「夢みたいな考えを不思議と実現させてしまう。だから社長もあなたを逃がさないんでしょうね。」

「怖いのか？俺が。こんなに利益をもたらしているのに？お前よりはよい成績を出しているだろ。妨害をもってしてもな。」

「妨害だなんて。あなたの管轄地域をより一層利益のあるものにするための知恵をお貸ししてるだけですよ。」

弓なりになる口角に反して真っ黒い目の奥にギラつく光が見える。京本の挑発に神経を逆撫でされたようだ。

「心配無用だ、必要ない。失礼する。」

「心配無用？どの口が。」

クックッと笑った伊藤が京本にじりじりと寄る。

「規則違反です。」

「う"っ、、！」

京本の腹に激痛が走る。

アスファルトに京本の胃液が滲んだ。