#05 ページ5
.
「あぁ惹きつけられた。心地よいメロディーに誘われてここに来たんだからな」
きっとAは冗談で言ったんだろう。でも正にその通りで、本当にAが奏でるメロディーに惹きつけられたのだ。俺の言葉に肯定されると思ってなかったのか、Aは驚いて恥ずかしそうにしている。
「自分で言っておいて照れんなよ」
「だ、だって、当たり前のように頷くので」
「最初から言ってるだろ、いい曲だって」
そう言った俺の言葉にAは目を見開いて驚く。そしてまたふわりと笑う。
「ありがとうございます。じゃあこれからもユンギさんが来ていただけるように、弾き続けますね」
「弾くだけじゃなくて歌って」
俺の言葉にまた嬉しそうに笑って頷く。
「メロディーもだけどAの歌声に合っててよりいい」
「ユンギさんはわたしを褒め殺すつもりですか?」
「そんなつもりはないけど…それぐらいいいと思ってる」
「ふふふ、ありがとうございます。じゃあユンギさんの貴重なお時間を頂戴して、もう一度弾かせてもらいますね」
にっこりと笑ってピアノへ戻るA。彼女の様子に、好き勝手に遊んでいた子どもたちが再びAの元へ集まってきた。
「Aせんせー!またピアノ弾くの?」
「お歌うたうの?」
「そうよ。みんなも歌うー?」
「歌うー!」
そんなやりとりをしながらAはピアノの前に座り、そっと鍵盤に指を添える。静かに、静かに音を奏で始めると、騒いでいた子どもたちも静かになり、じっとAの奏でる音を聞いていた。そして暫くメロディーを奏でた後、Aはそっと口を開いた。
澄んだ歌声が響く。歌うと言っていた子どもたちも一緒に歌うことなく、Aの歌に夢中だった。もちろん俺も。こんなに惹かれる曲は初めてだった。どうしよもなく彼女の歌声に焦がれる。子どもたちと同じように夢中になって聴いていた。
「おしまい?他の曲はー?」
曲が終わったことにも気付かないぐらい、余韻に浸っていたみたいだった。元気の良い子どもの声に、はっと我に返る。
「他にもあるのか?」
「似たような曲なら…あとは童謡とか子ども向けの曲も弾きますよ」
「へえ…じゃあ次は違うのも聞かせてもらうのもいいな」
「Aリサイタルですね」
「ああ、楽しみにしてる」
「またお時間があったらいらしてくださいね」
いつものようにふんわりと笑うAに、俺も柄もなく穏やかに笑っていることに気付いた。
.
267人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
涼音1006(プロフ) - 藍さまのお話を読むと、しっとりした空気を感じたり、優しいメロディーが聞こえてくるようでとても心地良いです。1日の終わりにベッドの上でゆっくりと読み返すのが楽しみです。これからも応援しております!お身体にきをつけて下さい(*^^*) (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
涼音1006(プロフ) - 藍さまはじめまして!「キミと奏でる〜」のキラピュアなユンギ氏と(←言い方)、「ひと夏〜」のチャラ甘で砂糖増量(←言い方!)なユンギ氏が最高すぎて、ここ数日で一気読みさせて頂きました♪続→→ (2021年6月3日 20時) (レス) id: 12686616a5 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 天然記念物さん» こちらこそ素敵なコメントありがとうございます。1番だなんて、そんな恐れ多いお言葉!嬉しい限りです。次回もキュンキュンできるような作品をお届けできるよう頑張ります。 (2018年8月20日 23時) (レス) id: 7c0b28e720 (このIDを非表示/違反報告)
天然記念物(プロフ) - とても面白かったです。今まで読んだ中で私的に1番キュンキュンしました!素敵な作品をありがとうございました。次回の作品も楽しみにしてます。 (2018年8月20日 22時) (レス) id: 70eef4ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:藍 | 作成日時:2018年8月12日 12時