影と月 (ページ37)

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「オールアップお疲れ様でしたー！」

「かんぱーい！」

主演のふたりが音頭を取って、キャストやスタッフの声とグラスが揃う。

グラスの合わせる音があちこちで響き

私も近くの人とグラスを合わせた。

ドラマ撮影が全て終了し

ただいま打ち上げ。

こういう場に慣れない私はちびちびとお酒を飲んだ。

「A、お疲れ様。

乾杯」

「あ、乾杯。

タカシには感謝しています…本当」

「そんなそんな！Aが努力したからやって」

近くにタカシがやってきて

鳴るグラス。

ロングコートを身に纏う彼はかなりかっこよくて

タカシも垢抜けたな、なんてどこかで呑気に思う。

「ありがとう」

「ん。無事に終わって良かったな」

お洒落にセットされた髪。

無造作な前髪から覗く、少し色っぽい瞳が私を撫でる。

「二次会あるらしいけど、どうする？」

「行ったほうが…いいんだよね？」

「うーん、無理はせんといて」

「タカシは行くの？」

「Aが行くなら行くで」

すると彼はおもむろに私のグラスを持ち

一口、飲み込んだ。

「これ、強そうやから気をつけてな」

…なるほど。

そういうことか。

「俺あんまり飲まれへんからええけど、

Aちゃんは怖いからな～」

過去に一度だけお酒を飲んで

メンバーの前でやらかしたことがある。

そのことを言っているんだろう。

優しい。

「お供よろしくお願い致します」

「こちらこそ」

笑った彼から八重歯が見え

いつものタカシが戻ってきたと感じる。

ちょっと、安心した。

「まあ、酒じゃなくても…」

「ん？」

すぐさま彼は何かを考えるような表情をした。

「なに？気になるじゃん」

「あとで言う！今はちょっとあかん」

誤魔化すようにグラスを傾け

「とりあえず一緒に写真撮ろ」と

スマホを出す。

画面に映った私は眉を下げていた。