影と月 (ページ35)

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でも私はその踏み込む一歩を躊躇った。

どうしても、だめだと

拒否する自分もいるから。

押し黙って、戸惑っていると

彼は広げた腕をそのまま私に伸ばし

すっぽりと私を包み込んだ。

自然にベッドへなだれ込むようにして

晃一の上に乗った私。

ぎゅっと力強く抱きしめる腕は

「俺のもの」なんて言われている気がする。

「こういうの、久しぶり」

彼がそう言って

私を横にする。

顔を上げれば、彼がすぐそばで笑ってる。

「抵抗、しないっていう」

「…」

何も言えなくなる。

別に、されたくて、抵抗しないわけじゃ、ない。

本当かどうかはわかりませんが。

ただ、ほんの少しだけ

近すぎるその距離に

彼の胸を手で押して、抵抗っぽいことをしてみる。

「遅いわ」

不意に声が低くなって

晃一が、近づく。

いいの？

脳裏に浮かぶ。

目を閉じた、

時。

私のスマホが大音量で着信音を鳴らした。

そうだ、お店に向かう前

ユーキから連絡がまた来るかと思ってそのままにしてたんだった…

「鳴ってんで」

出れば、と急に冷たく言い放った彼。

最悪なタイミングでぶち壊したのは

【ユーキ】

の三文字。

よりによってすぎる。

彼はちらり、と画面を見て溜息をついた。

一度、彼を見たが「いいから」なんて出るように促す。

「もしもし」

「A、無事？なんか急に出て行っちゃったから」

「うん、大丈夫」

「そう？コーイチは？」

「え、っと、」

隣にいます、なんて

言えるはずも無く。

「…コーイチ、さっさと寝ちゃったよ。だから今帰り」

「はあ？なんなのあいつ。一人？だいじょぶ？」

「うん。もう家の近くまで来てるから。ごめんね、なんか」

そこからいくつか言葉を交わし、ユーキとの通話を終わらせた。

「ふうん。俺、寝ちゃったんや～」

「言わなくていい、」

「自惚れていい？」

「え？」

「ユーキに勝ったって」

ほんと、しょーもない。

彼の言葉を使ってそう言おうとすれば

そのまま前から再び抱きしめられ

頬をすり寄せてくる。

くすぐったくて

身をよじるけれど

間もなく、

彼は私の頬にキスを落としやがった。