影と月 (ページ20)

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彼もそんな私にイラっときたのか

例のカットは荒々しい手つきだった。

何パターンか、カットを重ねていく。

「ちょっと、痛い」

「…ごめん」

手首をキツめに引っ張られたせいか

すこし赤みが皮膚に残る。

「A、最後はコーイチと目、合わせてみようか」

するとそんな指示。

あ、合わせてなかったっけ。

返事をしてから、彼に向き合うと

呼吸する胸板が目に入る。

はだけているシャツから素肌が見えた。

そのまま目線を上にして彼の目を見れば

彼の視線も私のほうへと下がる。

「ん」

いくぞ、みたいな声を漏らした彼。

それを合図にさっきより優しくベッドの上へと倒れていく。

無意識的に私は彼の素肌の部分を見ていた。

無理やり、目を彼の瞳へ映るように合わせる。

彼は、ずっと私の目を見ていてくれたのか。

指示があったのは私だけだったのを思い出し

そりゃあ不機嫌になるわな、と他人ごとのように思う。

ぴったりと合わさった焦点。

息をするのを忘れてしまいそうなほど、

時が止まるような。

デジャヴに襲われる。

なんで、そんなにまっすぐ見つめるの。

我慢できずに目を逸らそうすれば

突然、顎に手を添えられ

驚いたまま彼を見つめ続けるしかなかった。

「カット！おっけー！二人ともよかったよ！」

絶賛の声を受け、コーイチは

「緊張したー！ドッキドキ！」

なんて笑いながら言う。

「な？」

「もうやりたくないな～」

あくまで冗談ぽく私は放つ。

彼と目をもう合わせたくないと思った。

「休憩入ってください」

スタッフさんに声をかけられ

二人でそのスタジオを出る。

無言の中

口を開いたのは彼のほうで。

「…もっと見てくれてもええんちゃう？」

まだ不機嫌なの？

どういう気持ち？

わからないまま私は

「ん、」

なんて曖昧な返答をした。

＿＿「俺、待ってるからさ」

さっきまで変なカオしてたくせに

今はもう＿＿＿＿＿＿。

どきどき、

してたのも

知らないくせに。