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『あいつ絶対クビにしたる…』
「私は大丈夫ですから…落ち着いてください」
『もうあかん…ムカつくから食べて美味しいって俺に言って!』
私はフォークを渡され美味しそうな料理を口に運ぶとゆっくりと味わう。
「す…すごい美味しい!」
『ほんまに?!』
「大倉さんの料理食べれるなんて思ってなかったですし…料理得意だったんですね?」
『まぁ…誰かに食べさしたことはあらへんけどな』
向かいの席に座ると、頬杖をついて食べ進める私を見つめながら早口で述べた。
「そう…なんですね…」
大倉さんから視線を逸らすと水が入ったポットに手を伸ばした。
しかし、ポットは大倉さんに奪われ私のコップに水が注がれる。
「ありがとうございます」
『どの女も料理が下手で不味いもん俺に食わせんねん。でも使用人だけは、俺の好きな味付けまで覚えてどんな料理でも完璧に作る』
「それが使用人の仕事ですからね…」
コップを受け取ろうとした私の手は、勢い良く引かれ温かく優しい大倉さんの唇に押し付けられていた。
「な……っ!」
目を閉じて左手の手の甲に口付けを落とす大倉さんの表情は、おとぎ話に出てくる王子様のようで一気に心臓の鼓動が早まっていく。
リップ音を残して離れていくと、大倉さんはゆっくりと目を開いた。
『俺の女は使用人以外ありえへんから、他の奴らに使用人が惚れたとしても』
「大倉さん…もしかしてまた縁談断りました?」
『おん』
「お父様にきちんと説明を…」
『あーいや聞きたない。嫌なもんは嫌なの!』
「我儘な主人のお世話はしたくありません。ご馳走様でした」
私は最後の一口を食べ終わるとお皿を持って席を立った。
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作者名:夜 | 作成日時:2021年11月10日 20時