5-10 ページ6
なるべく足がつかないように、指定の車を用意してほしいこと。
羽生さんが望んだのはそれだった。
諸事情あって警察を辞めて、それでも1人で事件のことを調べるつもりらしい。
その受け渡しの日、羽生さんから分厚い封筒を差し出された。
「助かったわA。悪かったな」
「お礼は受け取るけど、それはいらない。退職金でしょ？大事にしなきゃ」
私は封筒の受け取りを拒否する。確かに一般的には大きな金額ではあるけれど、私からすればたいした金額じゃなかった。私は自分が持ち得るもので、羽生さんのことを助けると決めた。それは揺るがない。
「…わかった。ありがとう」
「うん。他に何か必要なことがあれば連絡して」
「Aも、何かあればすぐ呼べよ。遠慮しなくていいからな」
「ありがとう」
私の頭を1回撫でて、車に乗り込んだ羽生さんを見送る。
羽生さんがどこで何をしようとしているのかは、聞かなかった。羽生さんや藤田さんが巻き込まれた事件の詳細は知らないままだし、そこは私が踏み入ってはいけないラインだと判断したからだ。
最初こそ、羽生さんは私の方へまめに連絡をしてくれていた。その頻度が段々と減っていくまでが、おおよそ半年ぐらい。
1度だけ羽生さんに呼び出されたことがあった。
車の中で合流した羽生さんの生気のない目に驚いて、会えなかった間に何があったのか、事件について進展があったのかなんて聞けるわけがなかった。
珍しく羽生さんから求められるままにその場で応じた。
狭い車内で押し倒されて、密閉されたその場所で吐息が混じり合う。
真綿で包み込むような優しさで、私の反応を確かめながら進める、そんな行為ばかりの羽生さんが、自分本位の行為を求めてきたのは初めてだった。
「っ、A……A」
「大丈夫。大丈夫だよ、羽生さん」
自分本位とはいっても、縛ったり殴ったり首を絞めたりするわけじゃない。あくまで事のスピードが早いだけ。
もっとひどいことをされることに身体が慣れている私は、このぐらい平気だ。
それよりも、縋るように私の名前を呼んで、やるせないようなそんな表情ばかりの羽生さんのことが心配で、私は羽生さんのことを抱きしめる。
「…私は、羽生さんの味方だからね」
例え恋人じゃなくても。いつか他の男の人のもとへ嫁いでしまう女だとしても。
羽生さんの味方であることは一生変わらない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 492人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ハニ(プロフ) - 更新楽しみにしてます!! (2022年8月30日 17時) (
レス) id: e49c92eedc (このIDを非表示/違反報告)
kotono3026(プロフ) - 面白くて続きがすごく読みたいです！ (2022年7月11日 7時) (レス) @page18 id: 7aa8e8b85c (このIDを非表示/違反報告)
なずな - 続きを楽しみにしています！！ (2022年5月3日 6時) (レス) @page18 id: 3993a699bc (このIDを非表示/違反報告)
A(プロフ) - 続きを楽しみにしてます！ (2022年4月30日 19時) (レス) @page18 id: c5820b78bf (このIDを非表示/違反報告)
まい - こんばんは。ちょくちょくこの小説を読みに来ているのですが更新がされていないようで寂しいです…。続きはあると思ってもよろしいでしょうか？ (2022年2月15日 5時) (レス) @page18 id: 8f49d2e699 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：みずたま | 作成日時：2021年11月25日 19時
