９１話 立ち漕ぎ [櫻井] ページ17
街灯のポツリ、ポツリと並ぶ道路を歩く。
車通りはもうほとんどなくて
タクシーが一つ、静かに横を抜けていった。
自転車道の白線を辿っていた智くんが
ガードレールの切れ目を見つけて歩道へのぼる。
少し先からそれを振り返って見て、
俺は智くんがなぞっていた白線の続きを踏んで進んだ。
夏の虫が羽を震わせて、耳に心地良く響く。
右手に小さな公園が現れた時、
懐かしい気持ちに誘われるまま道路を渡った。
慌ててガードレールを跨いで追いかけてくる智くんが
ハラリと落ちた木の葉に立ち止まり
ふっと見上げて呟く。
智「…あれ。俺、…ここ知ってる…」
「え？」
低いポールの門を抜けて振り向く。
上手く聞きとれなかった言葉を
智くんはもう一度、口にした。
智「なんだろ…懐かしい」
今度ははっきり届いた声。
俺はまた公園の中心の方へ体を向けて
ゆっくりと歩き出す。
「俺も懐かしい。離婚してから、親父と最後に会ったの、ここ。話した事は覚えてないけど、キャッチボールしてさ」
踏み固められた土の上を
一歩進むごとに
ぼんやり昔の記憶が蘇ってくる。
智くんの足音が混ざるのを背中に感じながら続けた。
「俺野球苦手で。まっすぐ投げれないし、上手く取れねえしで……でも、楽しかったかな」
あずま屋の屋根の下に入ったとき
ズ…と靴底の擦れる音がして、そっちを見た。
地面すれすれまで鎖を伸ばしたブランコに
智くんが腰を下ろしている。
智「俺も野球はよくわかんねえな。ルールも曖昧だな。…翔くん、押して？」
「…(笑)しょうがないなぁ」
錆びでざらついた鎖の表面。
そっと後ろに回って握ったその上から
重なった智くんの手が戸惑う。
智「え？翔くん背中でしょ？」
「ん？」
智「押すの」
「やーだよ」
大人用には設計されてないブランコに足をかけて
二人乗りしようと…
智「は？アンタそれは無理だよ」
見上げて、眉を寄せる智くんを無視して揺らした。
無言で漕ぎ続ける俺を
そのうち智くんも手伝うように、足を動かし始めた。
９２話 あなただけに [大野] →←９０話 翔くん [松本]
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あかり - ぜひ見させていただきます！！ (2015年8月9日 21時) (
レス) id: 1ac7fc90e9 (このIDを非表示/違反報告)
ふみちゃん(プロフ) - あかりさん» そう言っていただけると本当に嬉しいです！よければ他の作品もよろしくお願いします。 (2015年8月9日 20時) (レス) id: f36ed0f5f4 (このIDを非表示/違反報告)
あかり - とてもおもしろかったです！完結おめでとうございます((o(*>ω<*)o)) (2015年8月5日 21時) (レス) id: 1ac7fc90e9 (このIDを非表示/違反報告)
ふみちゃん(プロフ) - 花夜さん» 花夜さん、ありがとうございます。今後の励みになります♪ (2015年7月30日 22時) (レス) id: f36ed0f5f4 (このIDを非表示/違反報告)
花夜 - 凄く面白いです!!! (2015年7月27日 15時) (レス) id: 7e159a367e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ふみちゃん | 作成日時：2015年5月20日 17時
