30 ページ31
私は一ノ瀬の中の自分の部屋だった場所に入る。そこで真っ先に感じたのは、狭いという印象だ。
晋助さんの隠れ家も、移動する船も追いやられた田舎でも、全てこの部屋の二倍の大きさはあったと思う。
でも私はこの部屋で育ち、夢を見ていたのである。柱に刻まれた身長、変なところに貼ってしまったシール。箪笥の裏に転がってしまったビー玉。
全てが懐かしく、何か小さな思い出を見つけてはクスりと笑ってしまった。
持っている提灯の火がユラユラと揺れ、部屋の中を仄かに灯す中、私は真ん中にあの権利書の紙切れを置く。そうしてそこから一歩距離を取った。
『……こんな場所、いりません』
思い出は全部胸の中にしまい込む。ここにはもう私が居た匂いも気配も消えてしまっていた。だからどこか他人の家のように思ったのだ。
『私の知ってる一ノ瀬は、ここにはないから……』
紙の上に提灯を落とせば、そこからジワジワと火が付き始める。晋助さんは私の肩口に手を回し、焦げ臭さと煙たさが立ち込み始める部屋から連れ出した。
遠く離れたところから見ると、空へ黒煙が上がっている。でも結局夜の深さに紛れてしまい、人目に触れる前に真っ赤に身を包むだろう。
夏の蒸し暑い空気の中へ、その炎の熱風が混ざり込んで私の髪をなびかせていく。頬をかすめるそれが少し煩わしくて耳にかけ直し、ゆっくりと空を仰いだ。
雨雲ひとつないからりと晴れた夜の空。星はキラキラと輝いており、月の光をより際立たせる。雨など降る気配もなく、まるで私の味方をしてくれていると笑ってしまった。
691人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「銀魂」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まい - 999本の薔薇は「何度生まれ変わってもあなたを愛す」ですね。感動しました。 (2020年5月12日 20時) (レス) id: 7154107f34 (このIDを非表示/違反報告)
ユウ - 完結おめでとうございます。まさか、「おかえり、愛おしい人よ」シリーズと繋がっていたのだとは知りませんでした。そして感動し、鳥肌が立ちました。素晴らしい作品です! (2019年11月12日 18時) (レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
莉緒奈(プロフ) - すごい感動しました!涙が止まらなかったです!本当におもしろくて、最高でした! (2019年2月9日 22時) (レス) id: 128bb1ac1a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(6/17)(プロフ) - モモさん» 閲覧とコメントをどうもありがとうございます^^ 沖田もいいキャラですけど高杉も捨てがたいですよね〜〜〜!! そう言ってもらえてとても嬉しいです!! ありがとうございました( ´ ∀`) (2018年4月27日 14時) (レス) id: 0297264441 (このIDを非表示/違反報告)
モモ - 今回の作品もとても面白かったです!思わず涙ぐんでしまいました(笑)サドリーマンも好きだけど、特に高杉さんの作品が大好きです!私もどちらかと言うと高杉好きなのでwとても素晴らしい作品をありがとうございました!!! (2018年3月18日 20時) (レス) id: a467930736 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory
作成日時:2017年8月24日 11時