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私は一ノ瀬の中の自分の部屋だった場所に入る。そこで真っ先に感じたのは、狭いという印象だ。

晋助さんの隠れ家も、移動する船も追いやられた田舎でも、全てこの部屋の二倍の大きさはあったと思う。



でも私はこの部屋で育ち、夢を見ていたのである。柱に刻まれた身長、変なところに貼ってしまったシール。箪笥の裏に転がってしまったビー玉。

全てが懐かしく、何か小さな思い出を見つけてはクスりと笑ってしまった。



持っている提灯の火がユラユラと揺れ、部屋の中を仄かに灯す中、私は真ん中にあの権利書の紙切れを置く。そうしてそこから一歩距離を取った。




『……こんな場所、いりません』




思い出は全部胸の中にしまい込む。ここにはもう私が居た匂いも気配も消えてしまっていた。だからどこか他人の家のように思ったのだ。




『私の知ってる一ノ瀬は、ここにはないから……』




紙の上に提灯を落とせば、そこからジワジワと火が付き始める。晋助さんは私の肩口に手を回し、焦げ臭さと煙たさが立ち込み始める部屋から連れ出した。



遠く離れたところから見ると、空へ黒煙が上がっている。でも結局夜の深さに紛れてしまい、人目に触れる前に真っ赤に身を包むだろう。


夏の蒸し暑い空気の中へ、その炎の熱風が混ざり込んで私の髪をなびかせていく。頬をかすめるそれが少し煩わしくて耳にかけ直し、ゆっくりと空を仰いだ。




雨雲ひとつないからりと晴れた夜の空。星はキラキラと輝いており、月の光をより際立たせる。雨など降る気配もなく、まるで私の味方をしてくれていると笑ってしまった。

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設定タグ:銀魂 , 高杉晋助 , 鬼兵隊   
作品ジャンル:アニメ
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まい - 999本の薔薇は「何度生まれ変わってもあなたを愛す」ですね。感動しました。 (2020年5月12日 20時) (レス) id: 7154107f34 (このIDを非表示/違反報告)
ユウ - 完結おめでとうございます。まさか、「おかえり、愛おしい人よ」シリーズと繋がっていたのだとは知りませんでした。そして感動し、鳥肌が立ちました。素晴らしい作品です! (2019年11月12日 18時) (レス) id: 7837a845b7 (このIDを非表示/違反報告)
莉緒奈(プロフ) - すごい感動しました!涙が止まらなかったです!本当におもしろくて、最高でした! (2019年2月9日 22時) (レス) id: 128bb1ac1a (このIDを非表示/違反報告)
ハル(6/17)(プロフ) - モモさん» 閲覧とコメントをどうもありがとうございます^^ 沖田もいいキャラですけど高杉も捨てがたいですよね〜〜〜!! そう言ってもらえてとても嬉しいです!! ありがとうございました( ´ ∀`) (2018年4月27日 14時) (レス) id: 0297264441 (このIDを非表示/違反報告)
モモ - 今回の作品もとても面白かったです!思わず涙ぐんでしまいました(笑)サドリーマンも好きだけど、特に高杉さんの作品が大好きです!私もどちらかと言うと高杉好きなのでwとても素晴らしい作品をありがとうございました!!! (2018年3月18日 20時) (レス) id: a467930736 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ハル | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/harumemory  
作成日時:2017年8月24日 11時

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