唯一無二の花嫁。7【キングダム】

331.言葉のもつ力。 ページ44

.



一際目立つ金の鎧。赤いマントに身を包み、自軍の兵に指示を出す様は一般兵とは明らかに違った。自身を盾にしてでもその青年を守る様子に、敵兵は何かを感じ取ったように攻撃を政一人に絞る。激化する中上空から放たれた矢に視線を仰いだ一瞬だった。

注意が逸れた時を狙って政の首に振り下ろされた剣。鮮血が舞い、「大王様ァァっ！！」と方々から聞こえる声。


「政っ！！」


崩れ落ちる政の体を咄嗟に抱きとめた私は、流れ落ちる血の量にゾッとした。止血代わりに首元を押さえても、指の隙間から止めどなく血が流れ落ちていく。温かいと感じる体は生きてる証拠なのに、でも政の顔色は見る見る蒼白になって…。


「政…っ」

「A…心配はいらない…。信も…騒ぎたてるな…士気に…関わる…。」


立ち上がった政の姿に味方はまた夢を見る。

まだ戦いは終わらないと。
共に戦えると。


「手当に下がる…Aは俺の側に…。信…お前は持ち場に…。」


倒れそうになる政の腰に腕を回し、必死に支えた。現実から目を逸らすように、視界に入る政の傷口を見ないように。

大切な人が目の前でいなくなるなんて、考えたくもない。


もう二度と、父上の時のような思いは…。


「もう…泣くな…。」

「政…っ……私…、」

「涙で濡れたお前の瞳も…綺麗だ…。こんな状況でも…Aは俺の心を揺さぶる…。」


救護班により慌ただしく政への処置が施される。私に微笑みかけてくれる政の顔は多量の出血により血の気がなく、話す言葉も弱々しい。

弱っている政を見ていられない。
それでも政は側にいろと私に言う。


「お前をおいて…死にはしない…。だから目を逸らさず、その瞳に俺を映してくれ…。」


政の手が、私の頬を流れ落ちる涙を拭う。壊れ物を扱うように繊細で優しい手つき。瀕死の重傷を負ったにも関わらず、自分よりも私を心配してくれる。


「泣き顔ばかり見せてくれるな…俺はお前の笑う顔が…好きだ…。」


何気ない一言。

でも、その何気ない一言でも慕う相手が紡ぐ言葉なら、全てが幸せに感じる。

332.想い人。　政side→←330.その存在が原動力。

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す