唯一無二の花嫁。7【キングダム】

302.十五日目。4　李牧side ページ14

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「陥落を知らせる狼煙…ではないみたいですね」


戦場を一望できる丘から見える函谷関。上空へと舞い上がる炎を遠目に、隣から聞こえてきたのは春申君の舌打ち。苛立つ様は戦況が芳しくないからだ。


「一体どうなってやがる！韓将成恢が討たれ、函谷関が未だに陥ちてねェとは！それも成恢を討ったのが元野盗とかいう男…、」

「桓騎ですか…。」


突然舞い込んできた情報は耳を疑うものだった。成恢を討った者の正体が魏兵であるとか、秦将張唐、もしくは桓騎であるとか。

成恢の性格上、率先して突撃するタイプではない。戦いの手段として毒兵器を使用するあたり、じわじわと時間をかけ相手を死に至らしめるのが、成恢のやり方。初戦にして大きな戦を仕掛けなかったのは、秦軍に餌をばら撒く為。

そして、今日がその八日目。

秦将張唐は既に虫の息だと、戦場に向かう前に成恢に聞かされた。だとするなら、秦軍に勝利をもたらしたのは必然的に桓騎となる。


「納得いかねェのは、その桓騎とかいう野郎だ。どんな姑息な手を使って成り上がったか知らねェが、そんな奴に五大将の一人がやられたってのが癪に触る」

「桓騎は間違いなく将の器があります。予想だにしない奇策で、過去に山陽の戦いで白亀西を強襲し討っているように。今回も魏兵になりすまし、成恢を討ったのでしょう」

「チッ、冷静に分析してる場合か」


戦場では、常に何が起きるかわからない。盤上の駒と違い、対するのは意思のある人間。どう動くかなど、予想する事の方が難しい。

今がそうであるように、戦況は私の思い通りにはいかない。


「冷静さも、時に仇となるな。自由にならない身の上と同じで」

「そうですね…。」

「Aとかいう女にも逃げられ、追いかける事もできやしねェ」

「春申君も彼女の事を気にかけてるようですね」

「バカを言え。俺らを裏切ったアイツが許せないだけだ」


辛辣の言葉で詰っても、彼女がいなくなった事に寂しさを覚えているのは、私よりも春申君の方。だから余計に苛立ち、落ち着かない。


「何か言いたそうだな？」

「いえ…、戦場にいる限りAには会えるでしょう。成恢を失った代償は大きいですが、函谷関が死地にある事に変わりはありません」


私の言葉に、そうだなと頷き春申君は燃える函谷関に視線を移した。

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