夢見草 ページ7
『うわー、広い』
今日、確かに誰かの声が聞こえた。可愛らしい女の子の。
この屋敷に入る人なんて、使用人くらいしかいないのに。それも、かなり年をとった。
久しぶりに自分以外の女の子の声を聞いた。懐かしいとは思わなかった。それより好奇心が勝ったから。
精一杯の声量で、女の子に聞こえるように声を投げかけた。
「誰かいるのですか」って。
だけどその子はすぐ、ばたばた足音を鳴らしながら外へ出ていってしまった。
もしかして、おばけだと思ったのかしら。小さい子ならなおさら、怖がらせてしまったかもしれないわ。
それはともかく、今日の出来事はちょっとした大発見でした。誰かに私の声が届くと判ったもの。
使用人の方は、私がお話しようとしても答えてくれないから。もしかしたら私、透明人間なのかもって本気で心配してたのに。
小さいとき本で読んだ、透明人間。誰にも気づかれないで、一人寂しく死んじゃった。
私はずっとここで一人ですし、暗い部屋で本を読むしかやることがありませんし。世のなんの役にも立たないということなのですから、それは透明人間と言っても同義だわ。
だけど、今日は。
名前も姿も知らない女の子に、届かないと思っていた声が届いた。
私はここにいると、教えてくれた。
どんな子なのかしら。同い年がいいわ。そうね、友達にもなりたい。
私の金の髪と蒼の瞳を見ても、驚かないかしら。真実かは分かりませんが、私以外の人、みんな黒いというものね。
ああ、考えてるうちにどんどんわくわくしてきた。
お互い声以外何も知らないのに、会いたい。
友達になりたい。
一人じゃなくなるなら、なんだっていいわ。
部屋に一つだけの小さい窓。そこから見える桜の花。
桜は儚く散る。夢もまた、儚く散る。
はらはら舞うそれを見て、彼女はまた夢を見た。
ーーー
夢見草(桜)の花言葉
純潔、精神の美、優美な女性

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作者名:ひすい | 作成日時:2020年12月1日 18時