夢見草 ページ15
「紅ちゃん、また来てくださるかしら…」
華麗に窓から出て駆けていった紅ちゃんを見送って、窓にもたれた。
優しくて、青い髪の、可愛い女の子。前に聞こえた声と同じ声で、私に話しかけてくれた。お友達になれたかしら。ねえ、爛?
『…ご主人様、あれを信じるんですか』
「あれだなんて言い方はやめて。紅ちゃんには名前があるわ」
『申し訳ありません。しかし…あの女は』
「…何?」
『……申し上げにくいのですが、人間ではありません。鬼と呼ばれる類の物怪です』
「鬼?本で出てくる、角の生えた悪者のこと?」
『そうです。僕には気づいていないようでしたが。恐らく、幾千もの鬼を従えるような大鬼かと』
「まさか。そんなことないわ」
『そんなことあるんです。一刻も速く関係を断ち切るべきです』
「あの子が鬼だろうと、あんなに優しかったのだからいいじゃない。私は何を言われようと、紅ちゃんのお友達です」
『…そうですか。余計な真似をしてすみません』
「気に病まないでください。あなたもあなたなりに心配してくれたのよね、ありがとう」
『はい。それでは僕はこれで』
「ええ」
もう、返事は返ってこなかった。しんと静まりかえる空間に取り残されたような感覚。
「………鬼…」
角の生えた傍若無人な、人々から恐がられる嫌われ者。
紅ちゃんが鬼なわけないじゃない。爛も大概なこと言うのね。
でも、もし本当に鬼だとしたら?
……変わらないわ。
紅ちゃんが鬼だとしても、きっと優しい鬼だわ。優しい鬼だって、すごくいいじゃない。
角が生えていたって、お友達も名前も欲しいはずだわ。目と髪の色が違うから、何よ。それなら私だってそうだわ。
嫌われ者だと言うけど、私は紅ちゃんが大好き。紅ちゃんが従えてると言った鬼だって、紅ちゃんが大好きなはずだわ。
「…紅ちゃん、また来てくれたらいいわね」
同じような言葉を、だんだん橙に染まる空に向かって投げかけた。

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作者名:ひすい | 作成日時:2020年12月1日 18時