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「…まさか、もう居ないよね」
一週間ぶりくらいになる自分の屋敷を見上げながら、無一郎は小さな声でそう呟く。
「…、」
無一郎がゆっくりと自室の障子を開けると、いつも飛びついてくるAの気配がないことにホッと息を吐いて、汚れた隊服を脱ぎ捨てる。
「…ん、」
「!」
後ろから自分ではない声が聞こえて慌てて振り向くと、もぞもぞと動く黒い人影に無一郎は恐る恐る「A…?」と呼びかける。
「…っ、うう、」
「え、A…?」
まだ着替えが終わっていない、はだけた着物のまま無一郎が人影に走り寄ればそれは確かにAで、暗闇の中でぐったりと瞳を閉じているその姿に、無一郎は寒気に似た恐怖のようなものを感じる。
「…っ、」
確かめるように無一郎がAの顔を両手で包み込むと、無意識なのかAは目を閉じたまま、無一郎の親指に思い切り噛みつく。
「…A、」
よほど飢えているのか、どんどん強くなっていく顎の力にこのままでは指を噛み切られてしまいで、無一郎は慌ててAの身体を揺り動かす。
「A、起きて。血ならいくらでもあげるから」
「…ん、」
無一郎のその言葉にゆっくりと目蓋を開けたAは、焦点の定まらない瞳を無一郎に向けて、まるで言葉の通じないただの鬼のように、そのまま勢いよく無一郎の首筋に噛みつく。
「…っ、」
鋭い痛みに無一郎が身体を固くしたとき、Aは無一郎の反応などお構いなしに乱雑に無一郎を押し倒し馬乗りになる。
「〜っ、」
大事なものを根こそぎ持っていかれる感覚に無一郎は身体を震わせながら、声にならない声で、何度もAの名前を呼びかける。
「…っ、」
無意識に溢れる熱い涙を拭う余裕なんてなくて、無一郎はただただ必死に浅い呼吸を繰り返した。
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チーズ(プロフ) - alice roseさん» コメントありがとうございます!そして嬉しいお言葉までありがとうございます!!これからも沢山ニヤニヤしていただけるように頑張ります!(笑)よろしくお願いしますm(__)m (2020年11月5日 18時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
alice rose - 控えめに言って最高です!いつもニヤニヤしながら読んでいます、これからも無理せず頑張って下さい!応援しています(≧∀≦) (2020年11月3日 21時) (レス) id: a666e6cc6f (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - まいまいさん» コメントありがとうございます!最高すぎるだなんて、嬉しいです!ちょうど更新しましたー!これからもよろしくお願いしますm(__)m (2020年11月3日 19時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
まいまい - 最高すぎます!!更新まってます! (2020年11月3日 19時) (レス) id: 194af2ccd7 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - ????なしさん» コメントありがとうございます!神!?なんと有難いお言葉、、!!頑張って書きますので、これからもよろしくお願いしますm(__)m (2020年11月2日 20時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2020年10月20日 19時