夢 【煉獄杏寿郎】

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「せめてものお詫びに、少し多めに結納金を用意させていただきました！」


家の中へ入り落ち着くなり、そう言ってずっと大事に抱えていたものを杏寿郎は重そうな音を立てて机の上に置く。


「いや、こんなに…」


薄々、杏寿郎の言っていることが真実ではないのであろうと気付いているAの両親も、目の前に差し出される大金を受け取る理由も見つからず、戸惑った様子でAに目を向ける。


「きょ、杏寿郎さん。流石に多すぎて、両親も困ってしまいます…」
「そうか。では…」


袋を開けてお金を半分ほど抜き取った杏寿郎は、袋に入ったままのお金を指差して「こちらは結納金、そして…」と残りのお金をAの方へと寄せる。


「？」
「残りは、大地主様の嫁という名誉を果たせなかった、Aさんからのお詫びのお金です！」
「…くっ、」


無理やりすぎる言い分に思わず笑い声を漏らしてしまった杏寿郎の父は、慌てて表情を元に戻して誤魔化すように咳払いを数回繰り返す。


「…。Aは、この結婚に納得しているのか？」
「え？」
「前回は…、お前を無理やり送り出す形になってしまって、申し訳なかった」


本当に申し訳なさそうにそう言う父に慌てて首を横に振ったAは、「お父さんは何も悪くないよ。それに今回は、私からお願いしたことだから…」と恥ずかしそうに視線を落とす。


「まぁ、そうなの！それなら安心ね！」
「！…Aさんは、お母様にそっくりですね！とても可愛らしい！」


ただ思ったことを言っているだけなのか、いつも通りすぎる笑顔でそんなことを言ってのける杏寿郎に、母は嬉しそうに瞳を輝かせる。


「まぁ、まぁ…！本当に杏寿郎さんはAが好きなのね！…たまに聞く、恋愛結婚ってものよね！素敵じゃない！」


興奮した様子でそう捲し立てた母は、嬉しそうな表情でAに目を向ける。


「恋愛…かは分かりませんが、たしかに俺はAさんが好きです！」
「えっ、」


初耳すぎる杏寿郎の言葉に慌ててAが杏寿郎を見ると、優しげに微笑んでいる杏寿郎と目が合ってしまって、Aは嬉しさと恥ずかしさで、胸の奥がぎゅっと苦しくなるのを感じる。


「！」


すぐに逸らされた視線の代わりに杏寿郎に優しく握られた手が温かくて、Aは幸せな気持ちを噛みしめるように、握られたその手をゆっくりと握り返した。

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