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「おかえりなさい。杏寿郎さん」
「…、」
次の日の夜中、静かに帰宅した杏寿郎はまさか出迎えられると思っていなかったのか、三つ指をついて自分を見つめるAを驚いたような表情で見て一瞬動きを止める。
「お、起きていたのか」
「はい。御勤めご苦労様です」
にこりと微笑みながらそう言うAはどこからどう見ても育ちの良い令嬢そのもので、庶民と罵られながらAが、今まで花嫁修行と称してどんな暮らしをしていたのかは杏寿郎にも察せられた。
「このような夜更けに、わざわざ出迎えることはない」
「え、ですが…」
「淑やかな所作も煩わしい義務も、ここでは気にする人間は誰も居ない」
そう言ってぽんと頭に乗せられた大きな手のひらに、Aは無意識に身体を固くする。
「では私は、」
「朝も夜も、千寿郎と同じ時間に起きて寝て、千寿郎の手伝いを少ししてくれるだけでいい。…大切な友人を助けるのに、対価などいらないだろう?」
Aの言葉を遮るかのようにそう言った杏寿郎は、わしゃわしゃとAの髪をかき乱して、「もう寝ろ」とAの横を通り過ぎていく。
「わ、私ではっ、杏寿郎さんのお役に立てないということですか?」
杏寿郎の言葉が、自分に対する最大限の優しさであることは気付きつつも、Aは何か少しでも彼のためになることをしたくて、慌ててその背中を引き止めてしまう。
「…今日の廊下は、いつもより綺麗だ」
「え?」
「Aさんがやってくれたのだろう。…ありがとう」
杏寿郎の有り余る優しさが逆に自分を拒まれているようで苦しくて、それでもどこか大切に思われているようで嬉しくて、Aはちぐはぐな感情を処理しきれないまま、穏やかな笑みを向けてくる杏寿郎に無理やりな笑みを返したのだった。
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チーズ(プロフ) - みゆさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけて嬉しいです!期待に添えるように頑張りますので、よろしくお願いしますm(__)m (2020年11月5日 18時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - よもぉぎさん» コメントありがとうございます!無限列車に乗車したんですね!私まだなんですー!煉獄さん現実に来て欲しいですよね、、更新頑張りますのでよろしくお願いします! (2020年11月5日 18時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
みゆ - 読ませていただきました!!煉獄さんがイケメン過ぎるし千寿郎は可愛くて お話が更新されるのを楽しみにしてます(*´ω`*)更新大変だと思いますが、無理せず頑張ってください☆ (2020年11月4日 8時) (レス) id: 010b0b49eb (このIDを非表示/違反報告)
よもぉぎ(プロフ) - はわぁ...素敵すぎます〜!!煉獄さんから愛されるなんて話数を積む事ににやけが増していきます!!無限列車にも乗車したんですがどれほど煉獄さんが現実にいたらと思ったんだろう。。更新頑張ってくださいー!!! (2020年11月4日 7時) (レス) id: 990295e7ae (このIDを非表示/違反報告)
チーズ(プロフ) - パプピーマン。さん» コメントありがとうございます!好きすぎるだなんて嬉しいです!口角が富士山!言い回しが上手すぎて思わずクスッと笑ってしまいました、、!!関係ないですけど、今の季節の富士山はめちゃくちゃ綺麗ですよね〜(笑)更新頑張りますのでよろしくお願いします! (2020年10月30日 11時) (レス) id: eb72564922 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:チーズ | 作成日時:2020年10月8日 14時