Only you . (ページ10)

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「え？いいよ」

「いいの！やる！」

私の手からドライヤーを奪い取り、後ろ向いて～と促す。なんだか彼と話していると小さい子と話してる気分になる。

「Aの髪さらさら～」

細い指がするすると髪を通る。……海もよく髪を乾かしてくれた。Aの髪好きなんだよね、って言いながら、優しく髪を撫でて。

………なんでこうも、思い出してしまうものなんだろう。あんな場面に遭遇してしまっても、思い出すのは優しく微笑む姿と楽しかった思い出ばかり。私は海を嫌いになることはできないんだと思う。

「………A？」

「…え？あ、何？」

「終わったよ？」

不思議そうに私を見つめるユーキ。ありがとう、と言ってドライヤーを受け取ろうとすると、ユーキは突然距離を詰めてきた。驚いた私なんか御構い無しにぐいぐい迫られ、すっかり床に倒れ込んでしまう。彼は床に手を付き、私に覆い被さった。

ユーキは固まって動けない私の首元に顔を埋めた。ふわふわの髪と息がかかってくすぐったい。

「……ちょ、何…っ」

「………この匂い大好き」

すん、と鼻で息を吸う気配を間近で感じて。大好き、と言った息が首元にかかると身体が熱くなる感覚がする。

「………A、」

「……な………何……？」

「………元彼の事思い出した？」

「え？」

彼はやる事も発言も、突拍子も無い事ばかり。

蛍光灯が眩しい。同じシャンプーの香りがふわりと香ってなんだかクラクラする。……だめだ。気をしっかり持て。ユーキの肩を持って軽く押すと彼はすんなりと私から離れた。

沈黙が流れる。２人で黙って床に座り込む。……なんでこんな時に限って彼は寝てくれないんだろう。

元彼、とか…一応まだ別れてない、し……

「………寝る」

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