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『ありがとうございました〜!』
エプロンをつけて花を抱える姿も様になってきた。中々のドジだけど愛嬌があるおかげでお客さんの評判もそこそこ良い。
俺はこいつをこの店で働かせる事にした。こいつをこのままほっといたら駄目だと思って。そして、こいつの名前は「村田祐基」になった。きちんと自分の名前を持って、働く事を知って。そうしないと、俺の気が済まない。
『ねえ、晃一』
『ん』
『……僕、Aの事幸せにできるかな』
閉店準備の途中、祐基はそう零した。A、という女の事を俺は詳しくは知らないが、こいつはその女の事がとにかく好きなんだと思う。
『………幸せにするために、今ちゃんと勉強せえ』
そう言うと彼は小さい声で、そうだよね、と答えた。店のシャッターを下ろした祐基は笑顔でこっちを見る。
『ねえねえ、プレゼント、ってどこに行ったら買える?』
『プレゼント?そんなんどこでも買えるわ』
『うーんと…ショッピングモール…でも?』
『ショッピングモール行ったら何でも買えるわ……Aって女に買うんか』
『お金が貯まったら………』
『ふーん…』
その女の事を思い浮かべているのか、頬が緩んでいる。ここまで惚れ込んでいるなんて、相当いい女なんだろうか。
…少し意地悪してやろう。
『なあ、今日来とったお姉さん美人やったな』
『えー…どの人?』
『茶髪で髪くるくるさせた人』
『んーよく見てなかった』
『あのお姉さんこの前も来とったな、祐基の事気に入ってると思うで』
『ふーん…』
『…もうAって女の事は忘れてあのお姉さんにしたらええんちゃう?』
モップがけをしている祐基の背中にそう聞いてみる。キュッ、と靴の音が聞こえて、祐基がこっちを見た。
『好きな人とじゃなきゃ一緒にいたくないよ』
『これから好きになればいい話やん』
『僕、A以上に好きな人なんてできない』
『Aしか好きになった事ないし、Aしか好きになれないよ』
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エリンギプール(プロフ) - 続きが気になります! 大変だとは思いますが、更新待ってます! 頑張ってください (2018年12月15日 23時) (レス) id: b1e7a3c80b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:な な . | 作成日時:2018年10月10日 23時