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いいなあ。私だってそれ、やりたかった。
けどやらなかったのだ。私は、やれなかったんじゃない。やらなかったんだ。初めて友達ができたとき。初めて持っているものを十分に使いこなせたとき。初めて自分の可能性に気づいたとき。初めて好きな人ができたとき。初めてあの箱庭のいびつさを知ったとき。初めての友達が死んだとき。今死んでもいいや。違う。私は、いまここで、最高の状態で死にたい、ってときは何度だってあった。普通の人はそうじゃないんだろうか。初めから何不自由なく人と言葉で心を通い合わせられる人は違うんだろうか。この世界で良しとされるものを持っている人は違うんだろうか。違うんだろう。だって、お前らと私は、違う。
でも、そう思い込むことは違うってそっちが分からせたんだ。同じ言葉で話しても心が通い合わないなんてことは往々にしてある。持つべきものを全て持っているからこそ生まれる感情も、向けられる視線もある。――なんだ。「正しく」ったって、この世は平等に地獄なんじゃないか。
だったら尚更こんな世界から抜けてしまえばいい。見つけた一瞬の煌きだってあっさりと押し流していくように時は流れ、行く先は今日も全て途方もない荒野。――それでも、自分の身に起こったことは抱えて、前に進めずともしっかりとここに立って、いま、息をしている。それだけで十分価値があると教えたのは。まるであるかのように私の目に映ったのは。一瞬の煌きのようで、ずっと消えずに。途方もない荒野、もしくは地獄、一寸先さえ分からない暗闇の中で、かすかに、ずっと、私の視界の端で消えなかったのは、そっちだ。
だからこそ腹が立って仕方がない。お前がその価値を否定するな。お前がお前の在り方を否定するな。
道中で既に仕掛けは万全。残念でした、絶対に二抜けなどさせてたまるものか。幸いにも、この世界は誰にとっても最悪なんだ。――だからこそ、うっかり、何でもないものが最高に見えたりする。
気がついた。驚きと敵意が入り混じった空気で振り返る。弛緩する。そして、いつものしかめっ面。
「――お前みたいな奴がいるせいで、俺は残らないといけなくなる」
私は逃げ遅れたものだと思われているのか。言ってやりたいことはたくさんある。とりあえず、今の言葉をそのまま返してやりたい。
私だって、お前のせいでこんな世界から逃げそこなってしまったんだから。
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