悲劇のヒロイン ページ10
.
病院からの帰り道。
亮はわたしの家の三軒手前の家に消えていき、ほんの何歩分かの距離を死神とふたりで。
「おまえ、ほんまもんの悲劇のヒロインやな」
それは馬鹿にしたふうにも、憐れんでいるふうにも響かなかった。
ただただ空っぽの言葉が宙に浮き、はじける。
「また同情ごっこ?」
「正解」
つながれた手を、でもわたしは振りほどかない。
何故だか、彼が、そうしたがっているように思えたから。
「なんでやねん。どういう展開や」
「ちがうの?」
「ちゃうわ、ばーか」
家の前で離された手をよく見ると、手のひらのまんなかに、丸い痣のような紋様が刻まれている。
「マーキング。おれのってシルシ」
死神は唇の端をつりあげる。
お前ら、やっぱりおもしろいわ。
そう言ってぺろっと舌をのぞかせる。
「お前でもあいつでも、どっちでもええや。でも、死んだら俺が連れてくから」
そしてやっぱりまばたきをした次の瞬間に、彼の姿は忽然と消えているのだ。
勝手なやつ。
訊きたいことは山ほどあるのに。
「・・・・・」
手のひらにつけられた痣を見つめる。
身体の浮遊感は濃密に、わたしをそっと支配する。
.
結局、ボロボロのローファーを親に見つからないよう隠して、また次の朝がきた。
全身にまとわりつく妙な軽々しさのせいで、うまく眠れなかった。
家を出ると、今日も凍てつくような寒さ。
待ってましたとばかりに近づいてきた死神も、首に青いアーガイル柄のマフラーをぐるぐる巻いている。
「・・・おはよ」
「なんやテンション低いなあ」
「寝れなかったの。ふわふわし過ぎて」
どっかの誰かさんのせいで。
心のなかで言い足すと、くつくつと笑った彼は。
「べつに、お前が死ぬの俺のせいちゃうし」
妙に子どもじみた口調で告げ、さっさと歩き出す。
冬の朝のとうめいな光に、ピアスがきらりとまたたいた。
「ねえ」
「ん?」
「死相ってなに?」
死神は空を仰ぎ、息をつく。
ささやかな違和感。
こんなに寒いのに、彼の息はすこしも白くない。
「人間は死ぬ運命が近づくと、独特のにおいがすんねん。俺ら死神はそれに反応して、取り憑く」
______________死ぬ運命
「ふうん」
「・・・・・」
「じゃあ、わたしの運命にすばるを巻きこんだのは、なんで?」
329人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「関ジャニ∞」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
眞光弓眸 - バレンタインらしい、とってもいい小説でした! (2018年3月14日 21時) (レス) id: f707b6af10 (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 安紀子さん» 安紀子さん、はじめまして!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございました!何かすこしでも届けられたものがあったなら幸いです!(^^) (2018年2月15日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 安田ヨココさん» 安田ヨココさん、はじめまして!読んでくださってありがとうございます!そんなふうに言っていただけてうれしいです!おまけ、書き上がったら更新しますね(^^) (2018年2月15日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
安紀子(プロフ) - 初めまして(^^) 素敵な作品をありがとうございました。読み終えて、何だか暖かい気持ちになりました(*´ω`*) (2018年2月15日 14時) (レス) id: 5200fb55a9 (このIDを非表示/違反報告)
安田ヨココ(プロフ) - べにさんの小説をはじめて読ませて頂きました。しょうたくんが涙を流す場面がとても心に打たれました!!!最後、再会ですかね!よければおまけ的なのをかいてほしいです^ ^ (2018年2月15日 8時) (レス) id: d4fbe2e5a6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:べに | 作成日時:2018年2月14日 0時