ハッピーバレンタイン ページ22
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渦を巻く視界に、はっきりと映し出される死神の姿。
こちらに歩み寄るその姿を見ていたら、なんだかひどくあんしんした。
やっと気がついた。
自分が、このひとに惹かれていたことに。
「なんやねん、おまえ、そこまでして死にたかったん?」
死神の手で、やさしいその手で、壊れたカラダを抱き起こされる。
まるであのときの、子猫のように。
「どんだけやねん。こんなん、はじめて見たわ。
なんでここまでして、他人に生きていてほしいなんて願うことができんねん」
わたしを見つめる凍りついたひとみから、一筋、流れ星のように美しいそれがこぼれた。
頬に落ちた、しずく。
なんだか可笑しくて___________うれしくて。
お腹の底から笑みがあふれる。
「ふふ、しにがみ・・・泣いてる?」
「泣いてへんわ、ばーか」
「しょうた、も・・・涙、出るん、だね」
今度は反対側のひとみから、一粒。
「はじめて口で呼んでくれたな」
撫でられる側頭部。
きっとそこに、致命的な傷を負っているのだろう。
だけどもう、そんなことはどうでもよかった。
あなたがわたしを連れ去ってくれるなら。
「しょうた」
「・・・・・」
「ハッピーバレンタイン」
わたしは毒薬を口に運ぶ。
ハート型のつやつやしたチョコレート。
それは、ひどく甘ったるい。
舌に染みて喉に絡みついて、わたしを殺す。
A、と、章大の声がした。
名を呼ばれたのは、わたしもはじめてだった。
つめたい唇に唇をふさがれる。
そっと、栓をするように。
「ん・・・」
あったかい。
何度も絡みつくそれに涙があふれた。
すばるの顔が頭をよぎった。
舌にふれる熱い吐息と、感触と。
氷のとけた、ひとみ。
「ばーか」
章大が言った。
彼の手は、生きた人間のようにあたたかかった。
「感服や」
その身体から鼓動がきこえる。
どくん、どくんと、あんまりたくましい。
わたしはわたしの全身に、ずしりと、重力が戻ってきたことを感じとる。
「人間も、捨てたもんとちゃうな」
章大は心から満たされたように笑う。
わたしが腕を必死で持ち上げ、やっと触れたその頬は、まるで乾いた砂の城のように。
「う、そ・・・」
灰になって、雪の上に落ちた。
もう一度ふれあった唇が離れると、そこにはもう、跡形もなく。
「・・・・・しょうた?」
カチ、と。
世界が変わる音がした。
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眞光弓眸 - バレンタインらしい、とってもいい小説でした! (2018年3月14日 21時) (レス) id: f707b6af10 (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 安紀子さん» 安紀子さん、はじめまして!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございました!何かすこしでも届けられたものがあったなら幸いです!(^^) (2018年2月15日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 安田ヨココさん» 安田ヨココさん、はじめまして!読んでくださってありがとうございます!そんなふうに言っていただけてうれしいです!おまけ、書き上がったら更新しますね(^^) (2018年2月15日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
安紀子(プロフ) - 初めまして(^^) 素敵な作品をありがとうございました。読み終えて、何だか暖かい気持ちになりました(*´ω`*) (2018年2月15日 14時) (レス) id: 5200fb55a9 (このIDを非表示/違反報告)
安田ヨココ(プロフ) - べにさんの小説をはじめて読ませて頂きました。しょうたくんが涙を流す場面がとても心に打たれました!!!最後、再会ですかね!よければおまけ的なのをかいてほしいです^ ^ (2018年2月15日 8時) (レス) id: d4fbe2e5a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べに | 作成日時:2018年2月14日 0時