それは現実なのだから ページ16
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「なあ」
その日の帰り道、亮がすこし深刻な面持ちで切り出した。
「すばるくんの話、きいた?」
「ん?すばるがなに?」
久しぶりにふたりきりでたどる帰路だった。
死神は『次のターゲットとなりそうな人間の観察』に行くとかなんとか言って、ついてきていない。
亮の横顔は、じっと足下を見つめている。
「最近の体調、あんまり安定してないらしい」
「・・・え」
「昨日、おかんが電話してるの聞いてもうて。
突然、なんてこともあり得るから、明日にも病室を移動するって」
思わず、ポケットのなかの壜を握りしめた。
あと2日。
実感のなかったそれが、急に現実味を帯びてくる。
「・・・・・」
見慣れた病院の一室に眠るすばるの顔色は、いつもより優れないように思えた。
握った手のつめたさに、なんだか泣きそうになった。
いつもは1時間ほど滞在する病室も、ほんの20分ほどで出てきてしまった。
「大丈夫やって」
「・・・うん」
「すばるくん、強いオトコやねんから」
ほんとうは、なにも事情を知らない亮のほうが不安なはずなのに。
俯くわたしを励まそうとしてくれる亮は、わざとおどけた調子で明るいはなしを紡いでくれて。
そのやさしさに、また泣きそうになる。
このチョコレートを食べたら、わたしは死ぬ。
だけど食べなかったら、すばるが死ぬ。
ちいさな壜に閉じこめられた、わたしたちの岐路。
亮と別れたあと、なんとなくまっすぐ家に帰る気になれなくて、近くの公園に足を運んだ。
以前より日は長くなったとはいえ、寒い季節。
この時間になると、子どもたちの姿はない。
だれもいないブランコに腰を下ろし、揺れる夕空をぼうっと眺めた。
「お嬢さん、ひとり?」
ふいに声をかけられ、振り向くと、あたたかそうな格好をした長身の男性が立っている。
「えっと・・・」
「危ないで?女の子がこんな時間に」
こんな時間、とは言ってもまだ19時前だ。
いつの間にか辺りは完全に夜に包まれ、わたしたちは街灯の白い光に照らされている。
小学校のPTAの補導員だろうか。
なんとなく気が引けて、わたしは荷物を持って立ち上がると、男性に会釈をして歩き出す・・・
「あはは、
帰れとは言うてないけどね?」
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眞光弓眸 - バレンタインらしい、とってもいい小説でした! (2018年3月14日 21時) (レス) id: f707b6af10 (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 安紀子さん» 安紀子さん、はじめまして!こちらこそ、読んでいただいてありがとうございました!何かすこしでも届けられたものがあったなら幸いです!(^^) (2018年2月15日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 安田ヨココさん» 安田ヨココさん、はじめまして!読んでくださってありがとうございます!そんなふうに言っていただけてうれしいです!おまけ、書き上がったら更新しますね(^^) (2018年2月15日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
安紀子(プロフ) - 初めまして(^^) 素敵な作品をありがとうございました。読み終えて、何だか暖かい気持ちになりました(*´ω`*) (2018年2月15日 14時) (レス) id: 5200fb55a9 (このIDを非表示/違反報告)
安田ヨココ(プロフ) - べにさんの小説をはじめて読ませて頂きました。しょうたくんが涙を流す場面がとても心に打たれました!!!最後、再会ですかね!よければおまけ的なのをかいてほしいです^ ^ (2018年2月15日 8時) (レス) id: d4fbe2e5a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:べに | 作成日時:2018年2月14日 0時