大変難儀な歩み寄り4 ページ11
幸せな夢を、見ていたような気がする。
何もなくしていなかった頃の。不安なことなんてなかった頃の夢を。
馬車に揺られているうちにいつの間にかわたしも眠ってしまっていたようで、少しまぶたに残った眠気にくぁ、と小さなあくびが出た。カーテンを少し開けて窓の外を確認すれば、かなり領地に近いところまで順調に戻ってきている様子。
「(このままいけば、夕食を作る時間は充分にある……かな?いやそもそも、わたしの作ったものは皆さんに食べてもらえるのだろうか)」
かなり傾いた日が赤く赤く燃えている。ここ最近は雨続きだったからだろうか、ようやく晴れた今日は特に強烈な夕焼けが頭上から地平線までを埋めつくしていた。
どろりと垂らした、血のような────
目眩がする。違う。これは、違う。…家族達を蝕んだ疫病は体の各所から出血を伴うものだったらしい、と心のどこかの冷静な部分が余計なことを囁いた。だから、わたしは最期に顔を見ることさえ。棺を舐める炎。空に登っていく黒煙。違う、違う違う違う。
震え始めた手でカーテンを閉めて、そのまま顔をしっかり覆う。
大丈夫、大丈夫。充分わたしは強いんだ。
吸って、吐いて、深呼吸をみっつ。
…問題ない。これでいつもの私だ。後悔や郷愁に足を取られている暇なんてない、するべきことを正しくするしかないのだから。
視線を感じて顔を上げると、鮮やかな紫がじっとこちらを見ていた。一瞬驚いたような表情の後、合わせられた目は離れないままゆっくりと持ち上げられた長い指がとんとんとその頬を叩く。……気づかないうちに泣いていたらしい。小さく礼を言ってごしごしと乱暴にハンカチで拭う。
再び満ちた沈黙がどこか気遣わしげだなんて都合のいい捉え方をする自分が嫌になって、自己嫌悪から逃げるように再び書類に目を落とした。今はただ、何も考えたくなかった。
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反復横跳び(プロフ) - 倉の中の石さん» ふとこぼれる猟奇的な一面みたいなところにものすごく性癖を感じてしまうオタクなので……へへ……頑張って更新再開いたします…… (2020年1月24日 23時) (レス) id: 96c6da8254 (このIDを非表示/違反報告)
反復横跳び(プロフ) - 薬味亭シャブ子さん» シャっシャブ子さんだ〜〜!、!!??!?返信遅れてすみません、なんとか更新再開していきたいと思います!がんばります! (2020年1月24日 23時) (レス) id: 96c6da8254 (このIDを非表示/違反報告)
倉の中の石(プロフ) - めっちゃ面白いです!もうゾムさんのところで「はぁーっ」ってなりました。神ですね。更新頑張ってください (2019年11月3日 15時) (レス) id: b9ac23ea5c (このIDを非表示/違反報告)
薬味亭シャブ子(プロフ) - コメント失礼します!!数あるオークションパロの中で一番すきです、描写がすごく丁寧で好きです。無理せずにこれからも頑張ってください、更新をいつまでも心待ちにしております (2019年11月3日 11時) (レス) id: b94aa3e9a3 (このIDを非表示/違反報告)
反復横跳び(プロフ) - みしろさん» ありがとうございます!冷え込みにやられて熱を出したりしていました!体には気をつけながらのんびり更新していきます! (2019年11月3日 1時) (レス) id: 96c6da8254 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:反復横跳び | 作成日時:2019年10月20日 14時