虹彩 ページ19
途端に、悪魔の顔から表情が一切消えた。
「っ…」
胡散臭くはあるが、いつも朗らかな表情で微笑んでくるコイツがそんな顔をしたものだから、思わず息を飲んだ。
殺気は消えていたが、青い瞳の奥には未だに憤りが微かに燻っている。
しかしそこに熱は一切ない。氷のような冷たさがあるだけだ。
どうやら相当お怒りらしい。
どうやって諌めればよいだろうかと考えを巡らせていると、不意に悪魔の手が伸びてきて、今日の昼間のように俺の頰にそっと触れた。
ただ、あの時のような威圧感にも似た空気の重苦しさはあまり感じない。
まあ、だからといって安心は出来ないのだが。
「どうかこれだけは間違えないでほしい」
「…?」
どこか縋るような声音だ。
本当にどうしたんだコイツは。少し様子がおかしい。
悪魔が顔をずいと近付いてくる。
近くで見るとますます顔立ちが整っているように思う。睫毛は意外と長いし肌も綺麗で、掘りも深い。
本当に非の打ち所がない、完璧な造形だ。
俺は、多分コイツの顔に惹かれていたのだと思う。
あの時とは状況が違うのに身体は動かず、コイツの瞳から目が離せない。
しかし、頭の中は不気味なくらい冷静だった。
「悪魔にとっては、人間なんてそこらの石ころと何ら変わらない」
あ、この目…俺と同じ色だ。
ふとそんなことを思った。
近くで見たらわかるのだが、蒼い瞳には微かに紫がかかっていた。この紫が紺碧に深みを与え、海の底のような色に見せている。
青い瞳を持つ人間はヨーロッパに6人に1人と多く存在する。日本でも九州や東北に稀に見られる。その中でも紫と青が混ざっている特殊な虹彩は滅多にいない。
というか、俺以外に見たことがない。
虹彩異色症というらしいが。
…不思議な偶然もあるもんだな。
「僕が優しくできるのは君だけだよ」
美しい色の瞳が更に距離を詰めてくる。
自画自賛するわけではないが、綺麗過ぎて本当に引きずり込まれてしまいそうだ。
そうして何時間も経ったような感覚に陥る。
それくらい、1秒がとても長く感じられた。
いっそ心地の良いものだっただが、それは唐突に打ち破られた。
『まもなくタイムセール終了です』
「まずいな、急ぐぞ!」
「タイミングッ!!」
何やら喧しく喚いているバカがいるようだが気にしないことにした。
…我に返った時、思ったより距離が近くて驚きで心臓がドキッとしたのは秘密にしておこう。
ちなみに、牛肉は無事入手した。
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ハルキ - いくら中性的で女に間違われるからって...男の娘とは言わないと思います...(男の娘地雷ッス←関係ない) (2021年10月11日 21時) (レス) @page22 id: 8862a535cf (このIDを非表示/違反報告)
アリア - なんで儂好評価してないんだろ。バカか (2019年7月12日 17時) (レス) id: 39676cde20 (このIDを非表示/違反報告)
Ratte*らて(プロフ) - 面白いです…!!!100個目の評価は頂きました←。更新頑張って下さいね!陰ながら応援しております。 (2019年3月19日 15時) (レス) id: 9c512a775a (このIDを非表示/違反報告)
アーテル(プロフ) - らいさん» 返信遅れて申し訳ありません。コメントありがとうございます。時間を見つけて書き進めていく所存ですので、今後ともご愛読の程宜しくお願いします。 (2019年3月18日 15時) (レス) id: 5f656bed23 (このIDを非表示/違反報告)
らい - 続きが気になります。
続き楽しみにしています。 (2019年2月23日 16時) (携帯から) (レス) id: 2b97e5f6a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アーテル | 作成日時:2019年1月3日 14時