私は師匠に退かない【HUNTER × HUNTER】

番外編 TOOTH・FAIRY ページ34

「ねえ、二人は歯が抜けた時どうしてた？」
「…どうしてた…って？」
「あれっしらない？真っ直ぐ伸びるように屋根の上に投げるとか、枕元に置いておくとコインに変わってたりするやつ！」
「なんて言うんだっけ…じんくす？」
「あ〜、そういうのな。」

くじら島へ向かう船はまったりゆっくり足を進める。その帆桁に座り込んだ三人は、夏の温い風を浴びて談笑に耽っていた。

「んー、オレそういうのした事ねぇな。」
「私もやった事ないかも。」
「なんで？信じてなかったの？」
「そういうのじゃないけど…なんだろうな、やる機会が無かった？」
「あーソレ。オレもオレも。」
「？まだ歯抜けた事ないの？」

キョロキョロと二人の顔を見るゴンを差し置いて、キルアと少女は互いに顔を見合せ何かを察する。

「歯が抜けた事はあるよなぁ。」
「うん。多分私達ゴンより抜けてる。」
「あはは、言えてる。」
「え？なに？二人だけにしかわかんない事？」
「ゴンは知らなくてもいい事だよ。」
「そ。わざわざ言う事でもないしな。…今度歯が抜けたらオレもなんかやってみようかな。」
「ちぇっ。二人だけでやな感じー。」

言えるわけがない。「グラついてた歯は全部修行と訓練の一貫でぶん殴られて抜けました」なんて。なんだかマヌケだし、ぶん殴った相手が相手なので癪だからだ。

「ゴンはどうしてたんだ？」
「オレ？オレは全部ネズミの巣穴に入れたよ。」
「えっ、なんでネズミ？」
「ネズミの歯みたいに強く伸びるようにだって。」
「へぇ〜、ジンクスっていうよりおまじないだね。」
「実際ゴンの歯って強そうだよな。」
「確かに。」

私の歯はきっと森の中だったり、海の中だったり、ゴミ箱の中だったりするんだろうな。いや、もう燃やされちゃったか。

天空闘技場で抜けた歯の違和感にはまだ少し慣れない。舌でその箇所に触れてみると、ザラリとした突起が当たった。おまじないなんかしなくったって、私の歯は順調に伸びてるんだ。

＊




男は自分の小指の爪よりも小さな歯を掲げ、その長い舌先にポトリと落とす。

口の中で転がせば、ザラリとしたソレの付け根が舌を引っ掻き、自分の歯とぶつかりカチリと音が鳴る。

(8…いや、9本目だったかな。)

どうだって構わないか。この行為に意味なんて無いのだから。

男の喉仏は大きく動き、満たされたように舌なめずりをする。

だけどまァ、敢えて意味を持たせるのであれば。

「キミの健やかな成長を、祈ってるよ」

「A。」

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